513 アマンと不思議のダンジョンその12 死神
「やめなよアマン」
「アユミ」
お互いの武器をせめぎ合わせながら二人はようやく間近で見つめ合えた。
しかしアマンの相貌はアユミの期待していたものではなかった。
明るく、面倒見もよく、何かにつけて優しかったアマンとは似ても似つかなかった。
大雑把に言えばどす黒く感じられた。
それはアマンの変色した皮膚にも表れている。
「アマン、それ黒姫のチカラじゃないの?」
「あの女、レイのことか」
アマンの声は低く、くぐもっていた。
アユミは内心の怯えを必死に押し込めながら手に力を込める。
「そ、そいつのせいでヒガさんのお屋敷にいた人たちが、みんな酷い目に遭ったんだよ」
「レイのせいじゃない」
つばぜり合いで押し返すアマンの力が強まった。
「でも闇のチカラだよ! おぞましくて、邪悪で、アマンまでおかしくなってる」
「レイのせいじゃないぞッ」
アマンの瞳が金色に光った。
身体は黒く、噴き出すオーラは禍々しさを増す。
「アユミ! カエルに接触するな! 離れろ」
金色のエルフがヒートガンを射撃しながら二人の間に入ろうとした。
「邪魔をするなッ」
アユミを突き飛ばすとだんびらを握ったままの拳を金色のみぞおちに叩き込んだ。
金色のエルフ、ハニー・バニーは身体をくの字に折り曲げて沈む。
「粋がるからだ」
苦悶の表情で見上げるハニー・バニーに対し、アマンはだんびらを振り上げた。
金色に光る双眸に慈悲の様子は伺えない。
「アマンッ」
猛り狂ったアユミの声が響いた。
赤い髪が逆立ち彼女の周囲に火花が爆ぜる。
その様をチラリと見て、アマンはだんびらを振り下ろした。
「アマンッ」
アユミが疾走った。
地を駆ける足が力強く大地を蹴ったのは最初の一歩だけだった。
「転身姫神ッ! 紅竜美人」
全身が炎に包まれると火の玉の勢いで滑空し、羽を広げてアマンに体当たりを食らわす。
二人はもつれあいながら高い天井すれすれまで飛び上がるとようやく離れた。
アユミは紅姫に転身した姿で頭上を滑空し、アマンはくるくると回転しながら地上へと降り立った。
「もうやめて、アマン」
「ケンカを吹っ掛けたのはそっちだ」
六人のハイエルフたちはひとところに集まりアマンを警戒している。
不用意に仕掛けてはこないが、その眼には憎しみを抱いた殺意を抱かせていた。
アユミがその者たちの先頭に降り立つ。
「謝るから! もうやめよ」
「アユミ! なにを言う」
「あいつは敵だぞ! マグ王の手先だ」
「ト=モ様の命令を忘れたのか」
アユミの様子に六人は色めき立った。
それでもアユミの様子は変わらない。
「アマンお願い! 一緒に来て」
「アユミッ」
「やめるんだアユミ」
エルフたちはアユミの口をふさごうとするがアユミは首を振り抵抗する。
「アユミ……」
その様子を見たアマンの瞳が徐々にいつもの黒い、優しさのこもった眼差しへと変化していった。
「あッ」
その時だった。
アユミとエルフたちの背後に何やら不穏な気配が漂った。
はっきりとは見えないが、確実に気配がする。
それも寒気を呼び覚ますほどに邪悪な気配だ。
エルフたちも気が付いた。さすがに勘が良い。
「気をつけろッ」
誰かが発した警告だったが、その瞬間から攻撃が始まった。
はっきりとは見えない何かによって、エルフたちは右へ左へと跳ね飛ばされた。
何かが周囲を飛び回っているのがわかる。
それは次第に気配のみにあらず、気味の悪い笑い声も重なりだした。
「ゴーストです」
エルフの答えは周囲の騒々しさをもって迎えられた。
ゴーストは実体を持たないアンデッドモンスターだ。
その正体をアマンは到底知りえなかったが、種族として精霊に精通しているエルフならばその対処法も心得ているのかもしれない。
しかし敵はどうやらゴーストだけではなさそうだった。
立ちすくむアユミの頭上に白い靄が集まりだすと、その靄は黒いローブをまとった白い骸骨の姿になった。
さらに手には身の丈よりもでかい大鎌を持っている。
「危ないアユミッ」
「エッ」
「死神ですッ! よけて」
アユミに向けて大鎌が振られた。
首を刈られる寸前、身体が強く押し出された。
「アマン」
身を挺したアマンに大鎌が深くめり込んでいた。




