510 アマンと不思議のダンジョンその9 エルフの目的
「あはは……」
ひきつった笑いを発しながら、アマンはさりげなく後退した。
しかしそれを察した藍色のスーツを着た青髪おさげのエルフと、黒色のスーツを着た黒髪おかっぱのエルフが二人、入り口の前へと移動した。
アユミと六人のハイエルフの女たちにアマンは囲まれてしまった。
「アマン……ッ」
「アユミ」
アマンに駆け寄ろうとしたアユミを金色のスーツを着た金髪ライオンヘアのエルフが遮る。
そしてまたしてもアマンに銃口を向けた。
「お前、さっき殺したはずのカエルじゃないのか? どうやって生き返ったんだ」
「……」
「いや、たしかお前、倒れてしばらくしたらいなくなっていたな。我らが目を離した隙に蘇って逃げたわけか。ということは死んだフリをしていたのだな。抜け目のないカエルだ」
金色のエルフはひとり納得した様子だ。
「抜け目ないと言うけれどハニー、ならばおめおめとまた現れたのは間抜けじゃないかしら? ねえマネー」
「ウィリー、おめおめと、ではなくて、ノコノコと、の方が正しいんじゃなくて?」
「そうね! そっちでもいいね」
桃色のスーツを着た桃髪ポニーテールのエルフと、白色のスーツを着た白髪ロングのエルフがきゃっきゃと笑いあう。
(なんだ? こいつら)
アマンはこの集団の真意をつかみかねていた。
大雑把な印象論ではあるが、なんというか、作り物っぽい。彼女らに対しそんな感想を抱かずにいられない。
今の場にそぐわない会話も、笑い声も、リアルな感情に訴えてくるものがない。
さも、一生懸命に人間味を演じている。そう思えてならなかった。
それとも自分なんて取るに足らない虫けらとしか思っていなく、単に余裕からふざけているのであろうか。
けれどアユミの反応は真に迫っていた。
あの心の揺れざまをおちゃらけて流してよいものではないはずだ。
アユミはこの奇妙な集団とどういう関係を築いているんだろうか。
仲間ではないのだろうか。
(こいつらといて、お前は大丈夫なのか、アユミ?)
しかしてこの者たちの戦闘レベルは高い。
さっきは見事に不覚を取った。
しかも今回はさらに人数が多い。
圧倒的に不利であり、普通なら絶望に近いものを覚えるだろう。
しかしアマンは絶望しない。
なぜなら何度でも負けることができるからだ。
(殺されるたびに痛い思いはするけれど、何度でも蘇れるわけだし)
そう思うとアマンの表情から焦りの影はスゥっと波のように引いていった。
意識せずに口元がほころんでもいる。
虚勢なのか生来の好奇心が沸き立ったのか。
アマンは徹底的にこの集団の秘密を暴いてやろうと決め、こちらから会話の主導権をとろうとした。
「なあ、お前ら、ひとつ勘違いしてないか?」
「なにがだ?」
六人のエルフが訝しそうな眼をする。
全員がアマンに対し警戒し、戦闘の構えを取っていた。
「まあ待てって。オレはアユミの友達だ。わかる? あんたらの仲間のアユミとオレは、と、も、だ、ち、だ」
「ともだち?」
金髪のエルフが復唱した。
「そう。だからさ、オレとあんたらも友達だ。わかる? と、も、だ、ち」
「お前もともだち……」
金髪の銃口が下がる。だが、
「ちがう。お前は友達ではない。バステトと一緒にいた」
背中に立つ青髪エルフが否定する。
「そうだ。バステトといた奴は敵だ」
その言葉に金髪の銃口が再び上がった。
「なんでだよ? バステトと仲悪いのか? なんでさ?」
「あいつらは敵だ」
「そうだ。昔から敵だった」
「あいつらは我らの神を狂わせた」
「そうだ。だから仕方なく、〈魔精霊〉は眠りにつかせた」
「でももう長く寝たからそろそろ起こしてもいいはず」
「そのために必要な秘宝を取りにここへ……」
アマンの目が秘宝という言葉を聞いて輝く。
「秘宝って?」
「秘宝とは、〈トレジャー・ギア〉と呼ばれ……」
ドォンッ!
金髪のエルフが銃口を頭上へ向けて一発撃った。
熱線が天井を破壊し瓦礫が崩れ落ちる。
「みんな、そこまでだ。ペラペラと話しすぎた」
「はっ」
「あ!」
「しまった」
全員がバツの悪そうな顔をしている。
その中でアユミだけは彼女らの目的について聞かされてはいなかったようで、アマン同様おしゃべりなエルフたちの言葉に耳を傾けていた。
「よくもしゃべらせてくれましたね、カエルさん」
「恐ろしい誘導尋問だった」
「勝手にしゃべったんじゃねえか」
アマンの突っ込みに聞く耳を持たない彼女らは問答無用とばかりに襲い掛かってきた。
「聞かれた以上、生かしてはおけません」
「今度こそ仕留めてあげるわ」
「我ら全員を相手に生き残れるとは思わぬことだ」
もう少し聞き出したかったが仕方がない。
とりあえずアマンは逃げることだけを考えることにした。




