509 アマンと不思議のダンジョンその8 待ち合わせ
そのフロアは白い大理石で組まれた遺跡のようだった。
扉を抜けた先は広い空間で、もちろん壁や天井は岩で囲われた洞窟なのだが、遺跡の中庭といった感じがした。
四角く切り出された大理石の石畳。
朽ちて倒れたいくつもの太い円柱状の柱。
正面と右手には別の建物内へ向かう扉があり、左手には岩壁から染み出す水が小さな滝となり緑を生い茂らす泉を作っていた。
その泉のほとりに三人の人影があった。
一瞥してわかる。
エルフだ。
耳が尖り、色白で華奢な女たち。
それもそうだが着ているその格好で一目瞭然だった。
三人ともさっき戦ったエルフたちとそっくりの格好をしている。
だが色が違った。
それにどんな意味があるかは知らないが、いま目前にいるのは銀色と藍色と、そして黒色のスーツを着ていた。
アユミとさっきのエルフたちの姿は見えない。
だがこれは手掛かりに違いない。
よもやこの奇怪極まりないダンジョンで自分以外に探索者がいるとは思ってもみなかったし、そのひとりがアユミだったことにも驚いている。
いったい何が起きているのか、アマンは混乱を抑えるためにも事情を探る以外考えられずにいた。
「だからアカメは役に立つんだよな」
こういう時にいつも思うのはアカメのことだった。
カエル族には珍しい知識欲旺盛の変わり者。
体力仕事はからっきしで、アマンはよくその点を揶揄したものだが、本当は自分に無い彼の才気をうらやんでいた。
ことあるごとに別の評価基準を用いることで、必死に肩を並べようとしていたのはアマンの方でもあったのだ。
機微に聡いアカメのことだから、とっくにこっちの心根には気付いていたかもしれない。
アマンは最近になってそう思うようになっていた。
「ん?」
「どうした?」
エルフたちのひとりがこちらに目を向けた。
「どうかしたのか、メリー・ミリー?」
メリー・ミリーと呼ばれた短めの銀髪に銀色のスーツを着たエルフがジッとこちらを見つめていた。
「メリー?」
「……いや、なんでもない。気のせいだったようだよ、キキー・コギー」
藍色のスーツを着た青い髪のおさげのエルフは「そうか」とだけ呟いた。
「気が張っているのでしょう。このダンジョンのこともありますが、授かったチカラに私たちもまだ落ち着けずにいるのでしょう」
「私は落ち着いている。お前と一緒にしないでくれ、フュリー・ホリー」
「あらあら。カリカリして」
「フュリーの言うとおりだぞ。落ち着けメリー」
「落ち着いているって」
岩陰に隠れたアマンはそっとエルフたちの様子をうかがっていた。
アユミのいないこの場で交戦しては勝っても負けても大差がない。
ここは気取られないよう尾行することを選択した。
三人のエルフはおそらく休憩をしていたのだろう。
泉から離れると右手の建物内へと入って行ってしまった。
ゆっくり二十は数えてからアマンはその建物へと近づいた。
エルフたちの通った入り口以外に中をうかがい知れる窓などはなかった。
用心しつつそっと中を覗き見る。
薄暗い通路の奥、三十メートルほど行った突き当りに三人の背中が見えた。
扉を前に立っているようである。
「まだ開かないのか、メリー?」
「うるさいよキキー。私は開錠技能に長けているわけではないんだよ」
「マスターキーを挿すだけじゃないですか」
「フュリーもうるさいよ。よし、回った。ほら開いたよ」
銀髪のエルフが取っ手を回すと扉は奥に向かい開いた。
中へと進むエルフの後をアマンも遅れじと追いかける。
「あっ!」
中へ入った途端、思わずアマンは声を出してしまった。
「ん? なんだ、お前は」
「カエル族だね」
「こんなところにいるなんて、こいつもここに巣食うモンスターじゃないのか?」
尾行していた三人のエルフがこちらを向いて待ち構えていた。
だが決してアマンがミスったわけではない。
「アマン! 無事だったんだね」
「アユミ!」
そこにはアユミとさっき戦った金色、白色、桃色のスーツを着たエルフもいた。
「待ち合わせ場所がここだった、てのか。あはは、ヤバいな」
滝のような冷や汗がアマンの全身からあふれでてきた。




