508 アマンと不思議のダンジョンその7 追跡
「クソッ」
汚い言葉を吐き捨てながらアマンは勢いよく立ち上がった。
生命の水の飛沫を受けてチチカカが驚く。
「ぶあッ、ぺっぺ……ひどいじゃないかアマン」
五度目の帰還を出迎えたチチカカだったが、アマンは目もくれない。
台から飛び降りると濡れた体もいとわず衣服と武具を再装備する。
「どうしたアマン? なに慌ててる?」
「マグ王は?」
振り返るアマンの顔にいつもの陽気さがない。
「お、おらんよ。どこにいるかも知らん」
「クソッ、とにかくすぐにダンジョンへ戻るッ」
「お、おい。少しは休憩したらどうだ。戦利品だって検分したいじゃろ」
「好きなの取り出してくれ! オレはすぐにまた潜る」
「なんじゃ! なにがあったんじゃ!」
「アユミだよ! アユミがいたんだ」
「ど、どこに? あ、おい! 待てアマン……」
アマンは待たず、部屋を飛び出していった。
チチカカ以外にもうひとり、心配げな顔のレイがいることにも気づかなかったようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下一階に降り立ったアマンはわき目も振らずに走り出した。
このダンジョンは入るたびに構造が変化する。
地図を描いても次の挑戦ではまったく意味をなさない。
五回の挑戦で浅い階層には大した敵も戦利品もないことを確認している。
「アユミとエルフどもならどんどんと下の階へと降りていくはずだ。さっきが地下九階だったから、少なくともそこまでは一気に降りられねえと追いつけねえ」
アマンは階段を探して走り回った。
分かれ道があっても迷わずにどっちかを選ぶ。
どっちでもよかった。
扉があれば躊躇なく蹴り開ける。
モンスターが待ち伏せていようが勢いに任せて斬り倒す。
不死身の身体なのだから、多少の無茶も効くというもの。
自身の利点をもう少し信頼しようと思っていた。
ダンジョンに潜って一時間ほどしか経っていなかったが、アマンはエルフと交戦した地下九階にまで辿り着いていた。
と言っても構造がまるで違うため、先ほどとは全く景色は異なっているのだが。
「そもそも同じ階に行ったからって巡り合えるもんなのか、ここは?」
痕跡をたどろうにも前回と同じ場所へは行きつけない。
それでも前回は会えたのだ。
信じて地下へと突き進む以外にない。
「後を追う、という状況にすらならないわけだな」
目の前に地下十階へ降りる階段があった。
さすがにここから先は未知の階層である。
闇雲に挑んで突破できるなどとは期待できない。
暗闇へと続く階下からは気味の悪い、ぬるい風が吹きつけてくるようだ。
「とにかく行くしかない」
意を決したアマンは地下十階に降り立った。
まるでどこぞの朽ちた古代遺跡のような場所だった。
くすんだ白い石材で組み上げられた構造をしている。
だがいつものように好奇心を発揮している場合ではない。
アマンは警戒しつつも足早に前進を開始した。
いくつか通路を曲がりくねり、いくつか扉を抜けた先で、幸運に邂逅した。
アユミと共にいたエルフそっくりの集団に遭遇したのだ。




