507 アマンと不思議のダンジョンその6 エレメンタルアーツ
人影が三つ駆け寄ってくる。
先頭を走ってくる金髪のライオンヘアの女が手にした得物から熱線を照射した。
「ゲコォッ」
光を確認した瞬間にアマンは飛びのいた。
立っていた場所の地面が熱線で融解する。
「不用心が過ぎるぞ、アユミ」
ライオンヘアの女と他二人がアユミとアマンの間に割って入った。
三人とも肌が白く耳が尖っている。
ハイエルフだ。
全員アユミと同じ光沢感のあるボディスーツを着ているが、それぞれ白色、桃色、金色とさまざまだ。
金色のスーツをまとったライオンヘアのエルフはなおもアマンに銃口を向けている。
「やめてハニー・バニー。アマンは敵じゃないよ」
「バステトの陣営にいた。奴は敵だ」
ハニー・バニーと呼ばれた金色のエルフはアマンから目を離さずに吐き捨てた。
「でもッ、マネー・モネー! ウィリー・ウィー! あなたたちからも……」
「私はハニーと同意見だよ」
「わたくしもです」
桃色のスーツに桃色の髪をポニーテールにしたウィリー・ウィーが答えると、白いスーツに白髪のロングヘアのマネー・モネーも追従した。
「そんな……」
「あのカエルを追っ払うとしよう」
「待ちなよハニー。あんたとマネーはまだ戦闘を禁止されているでしょ」
「あんな雑魚、この熱線銃があれば十分さ」
舌なめずりしながら金色のエルフが距離を詰めだした。
「んもう。ならせめて援護射撃に徹しなさいよ」
そう言って桃色のエルフが前に出るとアマンに向かって駆け出した。
「クソッ、やる気かよッ」
両手にだんびらを抜いたアマンが迎撃態勢をとる。
「やめてウィリー・ウィー!」
叫ぶアユミを白髪のエルフが押しとどめる。
アマンは後方で銃を構えたエルフを警戒しつつ、向かってくるエルフの戦法を見極めようとした。
桃色のエルフは得物らしきものを何も持っていなかった。
アユミも含めて全員がボディラインのくっきりとしたスーツを着ている。
武器を隠し持っていれば一発で見抜けそうなものだ。
「てことは格闘技かッ」
間合いに入ったウィリー・ウィーがまっすぐ足を伸ばして素早く鋭い蹴りを放つ。
頭部を狙った蹴りをアマンはスウェーバックでかわす。
「スピリット!」
「えっ」
エルフの掛け声と同時にアマンの足元がふらついた。
そのせいでかわした蹴りが角度を変えて追撃したことに対応できなかった。
側頭部に直撃を受け一瞬ブラックアウトしかける。
もう一方の足がみぞおちに蹴りこまれる寸前、両手を交差させて致命打を防いだ。
「くっ……なんだ今の? お前、何かしたな?」
「私たちハイエルフの戦闘武術エレメンタル・アーツよ。私は幻惑の精霊レプラコーンを従えているってわけ」
「幻惑の、精霊?」
「フフフ。この程度で腰が引けてるようではあなたに勝ち目はないね」
再びウィリー・ウィーが疾走する。
走りながら両手で地面に転がる石ころをガバっとすくい上げる。
「こんなことも出来るんだからッ! 石弾」
ばらまいた石つぶてがアマンめがけて飛んできた。
必死にかわすと間髪を入れずウィリー・ウィーの連続蹴りが叩き込まれる。
なんとかガードしたと思ったが、背中にかわしたはずの石つぶてが舞い戻り無数に被弾してしまう。
振り返ると石は意志を持っているかのように空中を自在に飛び回っている。
さらに驚いたことに、その石にはどれもギョロついた一つ目と醜く歪めた大口が開いていた。
「ギャッ、キャキャキャキャ」
石ころが笑っているところをアマンは初めて見た。
「どうかしら? ト=モ様にいただいた私のチカラ、人形使いっていうんだけど」
「パペット……」
ドゥンッ!
アマンは地面に倒れた。
胸の真ん中が熱かった。
「イヤァッ! アマァン」
悲鳴を上げるアユミの隣でハニー・バニーが銃口をこちらに向けていた。
「もう、ハニーったら。カエルに私のチカラを自慢してやろうとしてたのに」
「そんなことをしゃべるなよ、ウィリー」
ハニー・バニーがもう一発引き金を引いた。
発射される熱線でライオンヘアが乱れ舞う。
アマンは倒れながら泣いているアユミのことを見ていたが、頭を撃ち抜かれた瞬間に、真っ暗な意識の世界に沈み込んでいった。




