506 アマンと不思議のダンジョンその5 炎の再会
アマンとアユミ。
思いがけなかった再会に、二人とも、時が止まったように見つめあった。
瞬時にたくさんの言葉が脳裏をよぎり、そのどれもが口に出せずに通り過ぎる。
かすかに揺れる瞳の動きだけが、時が止まっていないことを証明していた。
しかし二人のそんな感傷に水を差す脅威がこの場にはまだ残っていた。
「きゃぅッ」
不意の重たい一撃にアユミが悲鳴を上げる。
デュラハンの振り回された鎖付きの鉄球が肩に直撃したのだ。
ゆっくりと墜落するアユミに続けざま鉄球が何発も当てられ、同時に幾重にも鎖が絡まり四肢を引き絞られた。
「くぅ」
苦悶の呻き声をあげるアユミを前にして、アマンは我に返るとだんびらを抜き一体のデュラハンに斬りかかった。
背後から斬りつけられたデュラハンの鎖が弛むと、アユミは自由になった腕一本を振り上げる。
「燃えろッ」
腕に逆巻く炎の渦が発生する。
「焼き尽くしてッ! 赤火灼熱ッ!」
赤い光弾がデュラハンをまとめて薙ぎ払った。
地面を貫通して走った赤い光が地面をえぐり、石と岩と土が融解しマグマとなって弾けとんだ。
「アマンッ」
灼熱の光景を前にして、呆然とたたずむアマンに転身を解いたアユミが抱きついた。
「アマンッ、アマンッ、アマンアマンアマン」
泣きながらアマンの全身をこねくり回す。
狼狽するアマンだったが涙目で身体中をまさぐるアユミのしたいようにさせてやった。
「なんともない?」
アマンの前で尻をぺたんと地面に下したアユミは以前よりも少しくたびれて見えた。
「なんともないさ」
ひょいと肩をすくませて、アマンは明るい声で答えた。
「でも……」
アユミの脳裏にアマンの上半身が爆散したあの日の光景がよみがえる。
「なんともないさ、ほらほら」
軽やかに跳び跳ねてみせるアマンにようやくアユミは小さく微笑んだ。
「へへ、久しぶりだなアユミ」
「うん」
「悪かったな、独りにしちまって」
「うん」
「その、なんだ……ちょっと疲れてるんじゃないか?」
「うん」
「平気か? なんかその服もキツそうだしな」
「これ?」
アユミが腕を上げ脇から腰のラインを強調する。
体をぴっちりと覆った赤い光沢を放つスーツを着ていた。
厚さは一ミリもないようで、生地は磨き抜かれた鏡のように硬質だった。
「その、お前さ、こんな所で会うなんて思わなかったよ」
「あたしだって」
「ここで何してるんだ?」
「あたしは……修行かな」
「修行?」
「ここにね、最強の炎があるんだって。あたし炎使いだからさ、ここへ行けって」
「誰が?」
「ト=モさん」
「誰?」
「エルフの人なんだけど、よくわかんない。でもいっぱい部下の人もいるし、アマンとはぐれてから、ずっとあたしの面倒見てくれてたんだよ」
「ふぅん」
アマンはアユミがバステトの城を連日襲撃していた事を尋ねようと思ったが、上手く切り出せずにいた。
せっかく再会した二人の関係がまたもつれるのではないかと不安に思ったためだ。
「とにかくさ、一緒にこいよ。もうその人のところに戻らなくてもいいだろ」
「う、うん」
少し困ったような顔でアユミがうつむく。
その時アユミを呼ぶ声と複数の近付いてくる気配があった。
「アユミ! なにしてる! そいつは敵だ」
「離れろアユミ! こっちへ来るんだ」
二人に向かい走り寄ってくるのは三人の人影だった。




