504 アマンと不思議のダンジョンその3 秘宝
「よっし! 五回目行ってみよーか」
アマンの声が元気にひびく。
「待てアマン。戦利品の整理が先じゃろ」
呼び止めたチチカカは壁際に置かれた長櫃の蓋を開けた。
その表情は渋い。
「爆弾が二個残っとる。拾い物はダガーが二本。錆びたブロードソードが一振りに、効果の不明な薬瓶が三つだけか」
「もっと深くまで潜んないと、いいお宝はなさそうだな」
「お前さんの背負ったそのバックパックの方が遥かにお宝だよ」
アマンが背負ったバックパックはマグ王に借りたものだ。
この背負い袋には大きさに関係なく、二十個まで、なんでも入れることができる。
槍だろうが全身甲冑だろうが、パンだろうが飴玉だろうが。
もちろん出し入れも自由。
しかしながら特筆すべきはチチカカたちの控えるこの部屋に置かれた長櫃と繋がっていることだ。
バックパックに入れたものはこの長櫃の中に貯蔵される。
これにより、アマンがダンジョンのどこで倒れても、その時点までにバックパックに収納していれば、こうして後から回収できるのだ。
「ただしこの長櫃からは取り出すことしか出来ない。長櫃に入れてもアマンのバックパックには転送されん、と」
「当然こっちで出したらオレのバックパックからも消えてなくなっちまうわけだ。つくづく不思議だよな。ま、このダンジョン攻略にはおあつらえ向きだけど」
「それは四百年前、我らの元にいた当時の黒姫、オーヤの置き土産です」
丁度マグ王が姿を現しアマンの疑問に解答した。
オーヤの名を聞いたレイが肩をすくませる。
「ご安心なさい。あなたとオーヤの間を繋いでいた黒き門は、私が断ち切りました」
そのためオーヤはすでにレイを探知できないと説明を受けている。
「オーヤは空間の歪みを操作することに長けていました。この長櫃もそうした術技により、あの者がこさえた代物です。おかげで我等もジャハンナムの探索が捗るようになりました」
「地下何階まであるんだい?」
「わかりません。全体を把握している者はいないのです」
過去にもバステトの勇者が何人も挑戦しているが制覇した者はなく、無事生き延びた者も少ないという。
「何のためにこんなダンジョンがあるんだよ?」
「そうですね。さしずめ、試練、といったところでしょうか」
「試練?」
「フフ。答えはご自身で見つけられるべきかと。先に知ってはヤル気も削がれましょう」
含みのあるマグ王の笑いにアマンはそれ以上の質問を止めた。
それに言ってくれたことは悔しいが正しい。
「じゃあ行ってくる。レイ、もうしばらく闇の力、借りとくぜ」
こくん、と頷くレイを見てからアマンは部屋を出ていった。
その後姿をマグ王も見送る。
「アマンさん。あなたはすでに黒姫からアサインメント以上の恩恵を受けているのですよ」
マグ王のささやきは小さく、誰にも聞こえはしない。
「もしかしたら、見つけられるかもしれません。深奥に眠る秘宝〈トレジャーギア〉を。あなたなら」




