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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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503 アマンと不思議のダンジョンその2 バステトの武具


 目覚めたとき、最初に視界に飛び込んだのは、こちらを見つめるカエル族のどアップ顔だった。


「起きたかアマン?」


 アマンの顔を覗き込んでいたのはチチカカだった。


「なんだ、おやっさんか。目覚めにどアップはやめてくれよ」

「何を! 心配してやったのに」

「レイは?」


 上体を起こしたアマンにチチカカが部屋の反対側を指し示す。

 振り向くとレイはこちらに背を向けて壁に向かいしゃがみこんでいた。

 念入りに両耳を手で塞いでまでいる。


「何してんだ、あいつ?」

「お前が再生していく様子を見たくないんだとよ。ワシも同意見だがね」


 何も身に付けていないアマンの身体は、深さ十センチ程度の液体に浸かっていた。

 ただの水ではない。

 マグ王の言うには母親の胎内にある羊水に似た成分らしい。


「今回は派手に死んだな、アマン。全身消し炭だったぞ。そんなのがお前、じわじわと肉や骨や神経やらが再生していく様をそうまじまじと見ていられるもんかよ」

「獣に食われるよりは爆散した方がましだろ?」

「どっちもごめんじゃ」

「おやっさんは獣に食われたことないからそんな事言うんだ」

「大半の者はそうじゃろうが。ったく、ヌマーカの真似事させるために爆弾をこさえてやった訳じゃないぞ」


 ブツブツ言いながらチチカカはレイの元へと行き、もう平気だよ、と伝えてやる。

 こちらを振り向いたレイはアマンがすっぽんぽんなのに気が付き慌ててまた背を向けてしまった。


「ニンゲンが何を照れるってんだ?」


 ぼやきながらアマンは寝ていた台から降りると濡れた身体をタオルで拭い、用意してあった衣類を身に付けだした。

 そこへマグ王がやって来た。

 相変わらずスラリとした体躯であるが猫の頭部は愛くるしい。

 白い毛並みに真っ黒なオニキスの宝冠が輝いている。


「そろそろ感じは掴めましたか、アマンさん?」

「まあ、なんとなく。三回も死んだから」

「四回じゃ」


 即座にチチカカが訂正する。


「不死であるラー・シャイとなったアマンさんならば、この水に血を数滴混ぜておくだけで、ダンジョンで倒れてもここで復活できます。どうぞ臆せず何度でも挑んでみてください」

「入るたびにマップの構造が変化するなんて、ほんと不思議なダンジョンだよ」


 楽しそうにアマンは笑う。

 コツコツと攻略法を考えるのが楽しくて仕方がないといった風だ。

 青い顔をしたレイはチチカカと目を合わせ、理解しがたいと首を傾げあった。


「なんだよ、おやっさん」

「なんでもないわい。お前の無謀さに呆れてるだけじゃ」

「へんッ」


 そもそも事の始まりは物欲しげな顔をして武器庫にたたずんでいたチチカカをアマンが見咎めた事にあった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「はぁ、見事なもんだ」

「なにがだい、おやっさん」

「この怪猫族(バステト)たちの武具だよ。装飾も切れ味も、どれも素晴らしい逸品ばかりだ」


 武器庫にはありとあらゆる武具が整頓されていた。

 どれも幻想種族バステトが扱うに相応しい優美さに満ちている。

 盗賊都市の裏路地で小さな武器屋を営んでいたチチカカにとって、どれもが目も眩むほどに神々しく映った。


「ワシもこのような武器で棚を埋めた店を構えたかったよ」


 寂しげな声でそっと漏らす。


「なんだよ、また新しい店を作ればいいじゃねぇかよ」

「簡単に言うな。ワシはいま、金も伝手(つて)も在庫もない。おまけに年齢もとってきた。今さら再スタートなんぞ……」

「在庫ならバステトのこの武具を譲ってもらえば? せっかく伝手も出来たんだし」

「…………え?」

「この剣とか扱えばさ、珍しいんだろ? たちまちおやっさんの店も繁盛するんじゃないかな」

「……たしかに…………たしかにたしかに」


 チチカカの表情に希望が広がる。

 こころなしか五歳ぐらい若返ったかも、などとアマンは思ったほどだ。


「マラガにはまだおやっさんの店も残ってるだろ。帰ったら新装開店だな」

「たしかにッ! 早速マグ王に掛け合ってみよう」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「あの武具はどれも、ジャハンナムから拾い集めたものなのです」

「ジャハンナム?」


 アマンとチチカカが聞き返す。


「この城の地下に広がる広大なダンジョンです。危険なため、普段は立ち入りを禁じています。ですが……そうですね」


 マグ王がアマンの顔を見て考え込む。


「不死身のラー・シャイとなったアマンさんならば、挑戦してもいいかもしれません」

「本当か!」


 アマンの顔に期待する何かが膨らみだす。


「ええ。このところハイエルフの襲撃もなくなりましたしね」


 連日襲撃してきたハイエルフたちだったが、この十日ほどの間、ピタリとそれは止んでしまった。

 それはまさにアマンが紅姫アユミと揉め、上半身を木っ端微塵に吹き飛ばされて以来だった。


「襲撃のない今のうちに我々も武装を補充しておきたいですから。アマンさんが拾い集めて来てくれれば、余剰分をチチカカさんにお譲りしましょう」

「そ、そんなにわんさか手に入るものなのか?」


 少々チチカカの顔に不安が表れる。


「ダンジョンには様々な武具が転がっています。我々バステトが扱いやすいものだけを選り分け、それ以外はお譲りしましょう」


 たしかに武器庫には隅の方により武骨な斧やハンマーといった類いのものが打ち捨てられるように転がっていたのを思い出した。

 スラリとした体つきのバステトたちにとっては軽くてよく斬れる武器がお似合いで、ハンマーなど重たい打撃系は似つかわしくない。


「では準備が出来次第、お声をお掛けください」


 こうしてチチカカの資産とアマンの好奇心を満たす挑戦が繰り返されることになったのだ。


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