表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/697

005 少女、カエルにバカだと思われる

挿絵(By みてみん)



 汗が張り付く不快感と、ゲコゲコ五月蠅(うるさ)い鳴き声で、少女は重たいまぶたをゆっくりと開けた。

 最初に違和感を覚えたのは、砕けた石の破片が散乱する地面で自分が寝ていたことだった。

 

 あれ? どうしてだろう?

 なんで私、地面で寝ていたんだろう?


 視界に自分の履いたローファーと、少し土で汚れてしまった制服のスカートが映る。


 ここ、どこ?

 家じゃない……。

 まるで、山の中にいるみたい。

 それにさっきからゲコゲコとカエルかな、鳴き声が聞こえる。


 都会で暮らす自分には想像もつかなかった。

 田舎の山の中がこんなにも騒々しいなんて。


 待って。なんで田舎にいるの?

 私寝る前なにしてたんだっけ?

 たしか、学校から帰宅途中だったような……それで神社の境内で……光に包まれて……。


 とにかく身を起こそうと顔を上げた瞬間だった。


「ひゃあぁぁぁッッッ」


 考えるより先に悲鳴を上げてしまった。

 無理もない。

 意識が朦朧としていた自分を囲むようにして、不思議な生物がゲコゲコと喚き散らしていたのだから。


 カ、カエル?


 それはあえて近い生物を挙げるならばカエルだった。


 小学生ぐらい大きなカエル。

 服も着てる。

 帽子もかぶってる。

 あ、一匹だけクツまで履いてる。

 カエル?

 カエル人間?

 さ、三匹もいる……。



 突然の少し高い声で発せられた悲鳴に、三匹は喧々諤々(けんけんがくがく)とした意見交換を中断した。

 腕組みをして唸っていたウシツノがその様子を見て口を開く。


「おい、そのニンゲン? 怯えているんじゃないのか? いまの悲鳴に聞こえたぞ」


 アマンが信じられないといった顔をする。


「まさか! ウシツノの旦那は知らないようだが、そもそもニンゲンというのは強欲で、その上ずる賢く、他種族に対して常に威張り散らすような奴らなんだぞ。吟遊詩人がそう歌っていたからな。マラガで聴いたんだ」

「それは偏見が過ぎますよ。それよりまずは彼女に事情を聴くべきでしょう。まさかこんなことになるなんて」


 アカメの感想はアマンもウシツノも同意見だった。

 三匹とも白光現象の調査に来ただけだった。

 何もないと高をくくっていた。

 それがまさか、この地では珍しい種族、ほぼ目にする機会のないニンゲンが、それもなんとも美しい白い剣と共に眠っていたのである。


 なんとなくだが、すでにそれぞれの胸には畏敬の念が生じていた。


「さて、そうはいってもまずどうしたものか」


 長老の息子として、まずは自分が率先せねば、とウシツノが思案を巡らせるていると、機先を制してアマンがニンゲンに話しかけていた。


「おい。お前ニンゲンだろ? ここでなにしてるんだ?」


 好奇心を抑えられなかったが、それでも用心のため腰のだんびらに指は掛けている。


「……」


 しばらく返答を待ってみるが少女からの返事は来ない。

 目をぱちくりさせるだけで、声すら出てこない。


「お、おい、聞いてんだろ? 答えろよ」

「だめですよアマンさん。我々の言葉で話しても。せめて西方語をお使いなさい」

「あ、ああそうか」


 カエル族にはフロッ語という独自の種族言語がある。

 それはカエル族だけではない。

 この世界に住まうすべての知的種族には、それぞれの種族言語が存在する。

 しかし当然だが、他種族との意思伝達にはより利便性の高い公用語も存在する。

 ある程度の知性がある者ならば、それらを当然のように駆使する。

 この地域で広く使われているのは西方語だ。

 世界に二つある大きな大陸のひとつ、ここ西の辺境大陸(ノーマンズランド)で最も通用する言葉である。

 いかに辺境のカザロ村といえども、外部との交流が全くないわけではない。

 そこで彼らも一般教養としてこの西方語は修めている。

 まあ多少のカエル訛りは仕方ないところだが。


「よ、よし。いくぞ」


 アマンは改めて少女に問いただした。


2020年6月27日 挿絵を挿入しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ