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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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490 自由騎士タイランその23 群体


 並走するアナハイをチラリと見て、タイランは黙って彼と左右を入れ替わった。


「タイランさん?」

「わずかに右に前のめりだ。左側の鼠径部を傷めたのだろう?」

「えっ! 確かに、言われてみれば少し違和感がします」

「左のドラゴンはオレが誘導する。君は逆へ行け」


 アナハイが何か言いたそうな顔をしたのに気付きタイランは言葉を足す。


「とるに足らん配置換えだと一笑に付すか、わずかでも勝率を上げるための必死ととるか。妻への君の想いの強さによる」


 アナハイは引き締まる思いがした。

 そうだ、これは自分の名誉のための戦いではないのだ。

 臆病な自分をそれでも「騎士」として立たせてくれるリュキアのための戦い、そしてそれに手を貸してくれる素晴らしい人たちの期待に応える機会なのだ。


「行きます! なんとしても、あの二匹のドラゴンをクロウさんの目前に差し出してみせます!」


 アナハイが雄叫びを上げて右のドラゴンへと疾走した。




 一定の距離を詰めたことで、二匹のドラゴンは再始動した。

 天へと向いていた長い首を巡らせて、向かってくる二人に焦点を合わせると、地を這うように凶暴な頭で突撃してきた。

 アナハイは必死に横へとかわし、タイランは上へとスレスレの滑空でやり過ごす。

 二人は足を翼を止めることなく走り続けた。

 時には交差して二つの長い首をぶつけてやりもした。

 そうしながら少しずつ待ち構えるクロウの射程範囲へとおびき出そうとした。

 そうした時間が過ぎていく中、巧みにかわし続けるタイランに業を煮やした二匹のドラゴンは、どちらもが揃ってアナハイにターゲットを絞った。

 立ちすくむアナハイに向けて二つの首が並んで一直線に向かってくる。


闇の男(ブギーマン)ッ」


 タイランの合図でクロウのクロスボウから猛毒の矢が発射された。

 立て続けに二発。

 ヒュドラの生き血でどす黒く変色した矢が薄い空気を切り裂いて二匹の首、それぞれの眉間に突きたった。


「やった!」


 思わず快哉を叫んだアナハイの目の前で予想外の光景が展開した。

 ドラゴンの身体がバラバラに分かれたのだ。

 ひとつひとつが三十センチほどの黒い物体。

 紙吹雪のように一斉に舞い散る。

 それは無数のコウモリだった。

 ここへ辿り着く前に一行を襲ったあの一つ目のコウモリたちだった。

 ドラゴンの長い首は消え、たくさんの一つ目コウモリがキイキイと鳴きながら飛び立つ。

 足下にはクロウの矢が刺さった二匹のコウモリだけが朽ちている。


「クソッタレ! ドラゴンはこいつらの集合体だったのかッ。これじゃあ毒も意味がねえ」


 クロウ・リーが歯噛みした。

 タイランとボンドァンはコウモリを切り払うも一匹二匹倒したところで退治しきれるものではなかった。

 一つ目コウモリは編隊飛行から集結すると、再び二つの長い首をしたドラゴンを形作る。


「撤退だ。諦めないにしても仕切り直したがいい」

「待て」


 撤退を主張するクロウを制してタイランはバイド=バイタに目線を向ける。

 ダークエルフの女は首を横に振った。


「アンタに言われた通り見ていたけど、あの首から下はずっと地面の下から出てこなかった」

「どういう事だ?」


 いぶかるクロウを含め全員がタイランを見る。


「普通に考えて集団のコウモリを統率する本体、(コア)と呼べるものがあるはずだ。それはおそらく……」


 タイランが長い首を巡らせつつ再びその姿を現そうとしている二匹のドラゴン、その長い首と首の間の地面を指差す。


「たぶん胴体だろうが、地中にあるはずだ」

「あれは二匹じゃなく、二つ首のドラゴンってわけだな」

「けどよ、その(コア)を引き摺り出せるのかよ。状況は何も変わってねえよ。どっちにしても、戻って態勢を立て直すしかないだろ」


 ボンドァンの言うとおりであった。

 無数のコウモリの群体という正体が知れたところであの巨体をどうにかする方法などなかった。

 沈黙が流れる。

 その間にコウモリたちは集まりドラゴンの形態は完成しつつあった。


「二匹だと思っていたドラゴンが半分に減ったと思えば気休めにもなるだろう」

「まだやる気か? 赤い鳥よ」


 諫めようとするクロウの腕をタイランは振り払って言う。


「戻ったところで何をどれだけ立て直せる? 撤退など、臆しただけだろう?」

「なにッ」

「おいおい赤い鳥らしくもねえぜ。冷静になれよ」


 激高するボンドァンと苦り顔をするクロウにタイランは言い放つ。


「機会が何度もあるなどと思うな。(アナハイ)の夫人を助けるのに時間制限はない、とはあの薬師の女は言わなかったぞ」

「ッ!」


 アナハイが立ち上がった。

 その顔は悲壮感で青ざめていたが、しっかりと何かを決意した顔をしていた。

 少し上擦りながらも彼ははっきりと言った。


「地面の下の本体は、僕が引き摺り出します。必ず」

「あぁ? なに言ってんだ、お前にんなことができるわけ……」


 襟元を掴もうとするボンドァンの手を払い、アナハイは一歩下がった。


「できます。僕には最後にまだ、やれる事があるんです」


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