472 自由騎士タイランその5 とんでもない仲間
案内された場にはすでに三人の男女が待ちかまえていた。
男が二人に女がひとり。
三人とも使い込まれた武具を身に付け油断なくこちらを見ている。
「最後のひとりは鳥人族かい」
タイランの姿を認めて若い方の男が言った。
タイラン以外、三人ともにニンゲンのようであった。
「それもオレ様と同じ剣士か。よう、アンタ」
年齢は二十代前半か。
少しウェーブがかった金髪をかきあげながらタイランの前にやってくる。
近寄ると日焼けした顔にはまだ幼さを感じさせる程度のそばかすが見てとれた。
「おいおい、ずいぶんくたびれた格好じゃないか。その羽根帽子もイケてるね。……そんで腰に吊るしたその剣」
顎をさすりながら値踏みするように見据える。
「へへ、そいつは大層ご立派そうだ。ちゃんと使えんのかい?」
金糸で縁取りされた青い絹織物の短衣を着て磨き抜かれた鋼の胸当てを身に付けている。
腕と脚には同じく銀色に光る小手と脛当てを着けていた。
そしてその若者が背負う大剣もなかなかに目を見張る。
だが身長から見るに扱うには少々長すぎるように思えた。
「坊やこそ、身の丈にあった剣を選んだらどうなんだ」
タイランの返答に若者はムッとする。
「坊やじゃない。ボンドァンだ。〈蒼剣〉のボンドァンとはオレ様のことだ」
「悪いが」
「けっ、よそ者がよ。見な」
ボンドァンが背中の大剣を抜くとコインを一枚空中に指で弾き上げた。
高く上がったコインが天井近くから目線の高さに落下してくるとブォン、と風を裂く音をさせつつ大剣を横に一閃する。
カラン、カラン、と乾いた音をたてタイランの足元に二つの塊が落ちた。
コインは両断されていた。
「見事だ」
「ッたりめーだ」
実際大したものだとタイランは思った。
放り投げたコインを叩き落とすことなく斬ったのだ。
単に横に薙ぐだけでは到底なし得ない。
技術とタイミングを計るセンスを要する。
ボンドァンの刀身は蒼く輝いていた。
「これがオレ様の剣、深蒼霊剣ブルーメタルだ。我が家に伝わる魔法の剣さ。……っと、勘違いするなよ。今のは剣の力じゃない。オレ様の技量だぜ」
周囲にたっぷりと自慢の剣を見せてから鞘にしまった。
「さて、次はアンタの番だ」
「オレの番?」
「そうさ。剣士が二人。どっちが上か決めておこうや。その方があとあと意見が割れたりしたときにやりやすいだろ」
「フゥ、やれやれ」
タイランは自分もコインを取り出すと剣を鞘から抜いた。
「思った通り。大した業物だ」
ボンドァンの目が爛々と輝く。
タイランの細身の剣は刀身がほんのり赤く光っている。
その刀身を刃を縦にして剣先を若者に突きつける。
「……」
「見てろ」
タイランはコインを鍔元に近い刃の上にこれまた縦にしてそっと置く。
「フッ」
「ッ!」
若者は仰天した。
素早く剣を手前に引きながら垂直に立てると、コインが表裏別々にスライスされヒラヒラと床に落ちた。
「…………」
「満足か?」
「……すげぇ」
「曲芸に過ぎん。実戦では無意味だ。まあ若造を黙らせる程度にはなるが、銀貨一枚には見合わん」
「言ってくれるじゃねえか、クソッ。なら実際に手合わせして……」
「それぐらいにしておけ」
若者を止めたのはもうひとりの男だった。
筋肉質な身体に黒い硬革鎧を着込んだ禿頭の戦士だ。
「そいつはあのクァックジャードの〈赤い鳥〉タイラン・フィン・フーリンだ。お前なんぞでは手も足も出ん」
男のセリフにボンドァンが目を剥く。
「こいつがあの〈赤い鳥〉! それってガチかよ……」
タイランはその男と、その男の隣に立つ女を見た。
「オレもお前を知っているぞ。〈闇の男〉クロウ・リー。そっちはお前の嫁の、たしか名は、バイド=バイタ」
「そうだ」
女の肌は褐色で、同様に黒い革の鎧を着ているが、口は黒革のマスクで覆われ、長い銀髪で目元以外を覆い隠している。
「見たところ、種族はダークエルフか」
「ちがう。ハーフよ」
想像よりさらに一段低い声で女は訂正した。
「こいつら夫婦かよ」
バイド=バイタのことを気にしていたボンドァンはガッカリした声で言った。
「口に気を付けろ。この二人は夫婦そろって暗殺者だ」
「げっ」
タイランの忠告を聞いてボンドァンが一歩下がる。
「元暗殺者だ。今はしがない冒険者だ」
「オレも元、だ。今はただのタイランでいる」
「そうか」
「顔合わせは以上でよろしいでしょうか」
大体の自己紹介が済んだとみて、案内をしてきた執事が一堂に声を掛けた。
「それではご主人様より言付かっております、ご依頼内容と報酬について、今一度ご説明申し上げます。まず……」
執事がよどみない説明を始める。
ボンドゥアンは後ろに立って壁に寄りかかっていた。
「ったく、とんでもねえ奴らと仲間を組むことになっちまったみてえだな」
そうしてひとり、誰にも聞こえない声でボヤいた。




