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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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470 自由騎士タイランその3 朝食の時間


 宿屋に併設された酒場には、タイラン以外に客はいなかった。


 昨日この町に流れ着いた後、<栄光の角笛亭>と書かれた看板の垂れ下がる、この店に宿をとった。

 久し振りのベッドは木材が少し朽ちていたが、シーツは小綺麗にされており、町の外からここまで聴こえる滝の水音も眠りを妨げるほどではなかった。

 夜明けと共に目覚めると、身支度を済ませ部屋を引き払う。

 町の商店が営業を開始する時刻を待って、糧食と医薬品を補充し町を出る予定だった。

 それまで束の間、湯気が香り立つコーヒーを楽しみつつ、注文した朝食が来るのを待っている現状だ。


 カウンターの奥では女将が料理に手を焼いている。

 昨夜も遅くまで酒場を営業していたのだろう。

 酒を楽しむこの町の者たちが集っていたようだ。

 どうやらタイランは久し振りの泊まり客だったらしく、早朝から客の食事を用意する手間に慌てているようだった。


 そんな朝の時間が唐突に終わりを告げる。

 宿の外に数頭の馬のいななきが聞こえた。

 この店に幾人か訪問者のあることが伝わってきた。

 早速ガチャガチャと身に付けた具足を鳴らしつつ、三人ほどの衛兵がズカズカと入ってきた。

 タイランの耳にはもう二人分の馬がいることを聞き分けていたので、おそらく外にもまだ衛兵が待機しているのだろうと察した。


 今ここに客はひとりしかいない。

 衛兵たちは迷うことなくタイランの席へとやって来た。


「赤い出で立ちの鳥人族(バードマン)とはお主だな」


 先頭に立った壮年の衛兵がタイランに声を掛けた。


「昨日このペシャへ流れ着いた際、門番と一悶着起こしただろう?」

「ふぅ、人違いではないようだな」


 まだ湯気の立つカップをテーブルに置くと、タイランは少しうんざりした顔をした。

 どうやら昨日のあの巨漢が、自らの恥を隠すより、旅の者への仕返しを選択したらしい。

 こんな辺境で投獄でもされたら一体いつ釈放されるか知れたものではない。


「待て待て。そう早合点するな」


 わずかに腰を浮かせたタイランの挙動に勘付いた壮年の衛兵がなだめすかす。


「我らはお主を咎めに来たのではない。実はお主の技量にご興味を持ったこの町のバギン太守がお会いしたいそうなのだ。今すぐ御足労願いたい」

「朝食を頼んでいるのだがな」


 とはいえ「ならば仕方ない」と素直に解放してくれるはずもなく、ため息をついたタイランはカウンターでやるせない顔をした女将に朝食代を含んだ宿泊料金を支払った。

 女将の傍らにはできたての朝食が盆に載せられていた。

 大空豆と根菜を煮込んだスープ、カレーパウダーで炒めた洞窟山羊の肉料理、バターと蜂蜜を添えた柔らかいパン、すりおろした林檎が混ぜ込まれたヨーグルトまであった。

 意外にも手の込んだ朝食を用意してくれたことにタイランは一言「すまない」、と告げて外に出た。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 衛兵に案内され、タイランはこの国境の町ペシャの太守、バギンの館を訪れた。

 くり抜いた崖の中腹に築かれたこの町で圧倒的に広く立派な佇まいであった。

 それと反し途中で見掛けたサキュラ正教の神殿はみすぼらしく、手入れも行き届いているようには見えなかった。

 国境とはいえここはまだエスメラルダである。

 慈愛の女神サキュラへの信仰心が強いこの国にあって、どうやらこの町の太守はあまり信心深い方ではないようだ。


 謁見に通された時、太守はまさに朝食の最中だった。

 広間の中央に置かれたテーブル上にはひとりでは食べきれないであろう量の食事が並んでいる。

 太守の背後には執事とメイドが控え、タイランを案内した衛兵もまた入り口横の壁際に下がる。

 特に椅子を勧められる事もなく、タイランは立ったまま太守が口を開くのを待った。

 それにしても恰幅のいい男だった。

 というよりも単純に太っている。

 年齢は五十代後半といったところか。

 上等の服を着ているがシャツのボタンは上から三つも肉厚のために止められず開きっぱなしだ。

 朝から食欲も旺盛のようだがあまり上品な食べ方には見えない。

 ただ目付きだけは鋭く、向こうもこちらを観察している風ではあった。


 太守が口を開くよりも先に状況に変化が訪れた。

 執事が背後の扉を開けるとそこから着飾った若い女が姿を見せたのだ。


「おお、リュキア。そなたは今朝も綺麗だね」


 太守が嬉しそうにリュキアと呼んだ女を手招きする。


「おはようございます、あなた」


 入室するなり女は太守にキスをした。


(奥方か)


 正直タイランは面食らった。

 この肥えた初老の太守には不釣り合いに見えたためだ。

 三十以上は年齢が離れているのではなかろうか。


「あなた」


 だが女はうっとりとした目で太守を見つめている。

 娘と言われれば何も気にすることもなかったのだろうが。

 とは言え本音だろうが建て前だろうが恋愛に年齢の差は関係ない。

 それになによりタイランにとっても関係のない事である。


 女は愛おしそうに肥えた太守の頬をさすり、もう一度キスをした。


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