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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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469 自由騎士タイランその2 町の門番


 ディバマンド山を行く道はとても静かだった。

 サクサクと爪先が沈む砂漠とは違い、固い岩肌を確かな足取りで踏みしめる。

 先を見上げれば、道は緩やかな勾配を幾度となく繰り返しながらも着実に空へと近付いていく。

 エスメラルダ王国と浮遊石地帯を隔てるこの山の標高は三千メートルを超す。

 今日の目的地であるペシャという宿場町はこの山の裾野にあるという。

 さすがにわざわざ山を登るルートを選ぶ者はいないようだ。


 だが今この道を進むのは赤い旅人ひとりだった。

 予定ではもう半刻も歩けば、ここを抜けようとするわずかな旅人のための宿にありつけるはずだ。


「どんな辺境にもそこで憩う住人がいるものだな」


 額から流れる汗を拭いつつ、旅人は歩き続けた。

 そのうち彼の耳に(かす)かだが水の流れる音が聞こえてきた。

 長いこと砂漠を旅してきた身からすると、その音が極上の調べかと錯覚しそうなほどだ。

 しばらく歩くとその音は確かな確信へと繋がる。

 空気に水気が含まれているのを感じた。

 両脇を高い崖に挟まれた道を歩く。

 巨大な岩のアーチを潜ると切り立った崖の上に出た。

 対岸には岸壁をくりぬいたような場所に町が見える。

 その町まで頼りなげな吊り橋が掛かっている。

 橋から足元を覗き見れば遥かな下方に流れの早い川が見える。

 その川の出所は一目瞭然。

 すでに耳には水の流れ落ちる轟音がこだましている。

 町の半分を水のカーテンが覆い隠すように滝が流れ落ちているのだ。

 この町はディバマンド山の中腹に流れる滝の裏にあるのだ。


「これはまた大した天然の要害だな」


 吊り橋を渡ると町の門番らしい二人の衛兵に誰何(すいか)された。


「誰でもない。山を越えたいだけだ」


 不遜な態度と捉えた巨漢の衛兵が旅人の前に立ちはだかる。


「名はなんという?」

「タイラン」


 赤い旅人、タイランは何も臆すことなく静かに答えた。


「何処のタイランだ? 所属は?」

「何処でもない。ただのタイランだ」

「ほう」


 巨漢の衛兵はタイランを値踏みした。

 身体は自分よりも小さい。

 身なりはくたびれている。

 金はなさそうだ。

 とはいえ生意気なこの鳥人族(バードマン)を無事に通すのは面白くない。

 最近は訪れる旅人も少なく、少々暴れ足りなく思っていたところでもある。

 一発お見舞いして、この生意気な態度を改めさせてやるのもいい。

 なに、理由なんてどうとでもなる。

 剣をちらつかせてやれば途端にビビるかもしれないな。


「そうか。ではタイラン、町に入るために大事な事を教えてやる」


 鞘に収めた剣の柄を強く握る。


「この町にはお前のような亜人は少ない。人間様の住む街だからな。なのでそのような不遜な態度でいてはどうなるかッ」


 鞘から抜いた剣の腹で横ッ面をひっぱたいてやろうと思った。

 今、この瞬間、バシン、という音を立てて、この者が驚き腰が砕ける様を笑ってやろうと。


「どうなるのだ?」

「ぐっ……?」


 剣が抜けなかった。

 いつの間にか巨漢の目前に立っていたタイランが、巨漢の握る剣の柄頭を右手のひらで強く押し止めている。

 巨漢は顔中に血液を集めるほど真っ赤になって力を込めるがビクともしない。


「親切な衛兵だ。新参者のこのオレに忠告してくれるとはな。それで、どうなるのだ?」

「くっ、くぅ」

「もう止めとけ、バルソル。あんた、もう行っていいよ」


 もうひとりの衛兵が二人を止めに入った。

 だいぶ歳経た白髪混じりの男だった。

 力を抜いたタイランが体を右に避けると、たまらず巨漢は前につんのめって顔から地面に突っ伏した。


「ぶ、ぺっぺ」


 口に入った泥土を必死になって吐き出している。

 そんなことには興味を示さずタイランは町へと歩き出した。

 白髪混じりの衛兵に軽く会釈する。


「すまないな。そう案じなくても明日には町を出ていくさ」

「それがいい」

「ところでいい宿屋を紹介してほしいのだが」

「この町に宿屋はひとつしかない」


 肩をすくませながらタイランは町の門を通過した。


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