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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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467 アカメの冒険その12 真相


 馬上槍試合(トーナメント)が終了した夜、アカメとハクニーはホラズム卿の城で歓待を受けていた。

 三人の前には豪勢な食事と上等なワインが用意されている。


「事件の概要を聞いたとき、まだ私の中で容疑者は固まっていませんでした。ですがあの夜、調教師の食べた夕飯のメニューを知り、まず真っ先にドワーフを除外することにしました」


 アカメの切り出しにホラズム卿は驚いた。

 目下の第一容疑者が初期の段階で外れていたとは信じ難かった。


「調教師は夕飯に混入されたヴァニッシュによって酩酊状態に陥りました。そのヴァニッシュですが無味無臭ではありません。決して嫌な匂いではありませんが、食べ物に混ざっていれば一口で異常に気付き、その後は口へと運ばなくなるでしょうね」

「あ、だからマトンカレー」

「そうです、ハクニーさん。カレーに混ぜ混めば匂いも誤魔化せます。しかしドワーフがヴァニッシュを混入しようとやってきて、たまたまその日の夕飯がカレーだった、などという偶然はまず除外します。それよりもそのメニューを決めることが出来た人物」

「キーヴィスかその夫人か」

「その考えを決定付けたのは番犬です」

「あの犬はなにもせんかった」

「そうです。私たちが訪れたとき、あんなにも吠え立てたのに、ホワイト・ランが連れ出されたときは誰も目を覚まさないほどに静かでした。それはなぜか」

「あの犬がよく知る人物だった」

「そうです。連れ出したのは深夜に家を出たキーヴィスだと確信しました」

「なんということだ。真面目な男だと信じておったというに。だが何故?」

「彼の所持品に答えはありました。ヒル・スローヴァー宛の請求書です。いかに面倒見がいいとはいえ、他人宛の請求書を、それもあれほど高額なものを持ち歩く輩はいません。そこで過日、カレドニアへ戻った私は妖精通り(ピクシー・アベニュー)にあるレディ・ヘルメスへと向かいました。店の者にキーヴィスの似顔絵を見せるとすぐさまヒル・スローヴァーだと回答されましたよ。常連だったそうです」


 ホラズム卿はあんぐりと口を開けっぱなしだ。


「では、というと?」

「念のためキーヴィス夫人にレディ・ヘルメスの仕立てたドレスを持っているか探りをいれましたが、夫人は持っていませんでした。となるとキーヴィスはヒル・スローヴァーを名乗り二重生活をしていた。失礼ですが、閣下がいくら彼に報いたとしても、八七〇〇ガルもするドレスを愛人にくれてやるほど給金を弾むことはないでしょう。これが動機です」

「金か」

「深夜、荒れ地に連れ出したのは馬の足に細工をするためです。細かい作業をするために外套を脱ぎ、枯れ木に引っ掻けると窪地の底へと降りました。窪地を選んだのはろうそくに着けた灯りを遠目から隠すためです。ちなみにこれで完全にドワーフの容疑は晴れました。彼らは生来持って生まれた暗視能力がありますからね」

「ホワイト・ランの足に細工と申しましたか?」

「ええ。その点はハクニーさんの方が詳しいでしょう」


 アカメに水を向けられるとハクニーは胸元から一本のナイフを出した。

 キーヴィスが握っていた外科用のナイフだった。


「これで皮下手術によって馬の(ひかがみ)の腱に傷をつければ、外からはわからないけれど、馬は足を引きずってしまう。調教中に足を痛めたと言われてもわからないよ」

「なんて奴だ!」

「ですが異常を察知したホワイト・ランが暴れます。哀れキーヴィスは馬の蹄により帰らぬ人となりました」


 ホラズム卿は声も出ない有り様だった。

 アカメはひとくちワインをすすると、


「ですがまだ断定するには早かった。失敗に終わりましたが、馬の足に細工を練習もなしにするでしょうか。ねえハクニーさん」

「え?」

「メェーメェー」

「あ! 羊だ! 足を引きずった羊が三匹いたって」

「なるほど! 羊たちの疫病とはこの事ですか」


 どうやらすべての合点がいったようで、ホラズム卿もようやく明るい声になった。


「なんとも、すごい。見事な調査です。おみそれした。ところで、ひとつだけ気になっておるのですが」

「なんでしょう?」

「それでホワイト・ランは今日までいったい何処におったのでしょう?」


 アカメはワイングラスをテーブルに置くと、改めてホラズム卿に向き合った。


「そのことなのですが、閣下には恩赦をいただきたく」

「ホワイト・ランはね、近くの厩舎で保護されていたんだよ」


 気遣わしげなハクニーの声が、部屋に居る者たちの耳に小さく届いた。


「近くの……」

「…………」

「…………うん、うん!」


 何度か頷いた卿はにこやかにグラスを捧げ持った。


「では乾杯しましょう。類い稀なる叡智を持つ聖賢者殿と、心優しき可憐な姫君に」

「閣下の名声とホワイト・ランの栄光に」

「かんぱぁい」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 翌日、ドーノッホにある衛士詰所から出てきたドワーフをアカメは外で出迎えた。

 少し頭がガンガンと痛むのは、恐らく久し振りに昨夜ワインを嗜んだためだろう。

 昼前には治まるはずだと自分に言い聞かせる。


 それよりもこのチャドというドワーフを伝手(つて)に、彼らの国と交流を持ちたいと考えていた。

 そのためにハイランドの印象を下げたまま帰すわけにはいかないと考えたのだ。


「この度は大変でしたね。ですが無実が証明できて何よりでした」

「あんたが証明してくれたんだってな。ま、感謝しますよ」

「それでですね、できればこの親書をあなたの国ゼッペリンの王に届けていただきたいのですが」

「ちょい待ち」

「なんでしょう?」

「オレは何日も勾留されていてその間一滴も飲んでないんだ。まずは一杯やりたいんだがね」

「はあ」

「ところが今は文無しでね。あんた、大事な話なら酒場でじっくり聞いてやるさ。付き合ってくれるよな」

「いっ」


 ガンガンと痛むこめかみを押さえて後ずさる。


「オレたちドワーフは終わったことに遺恨は残さない! けどそれもうまい酒を酌み交わせる相手となら、だけどな! ガハハハ」

「いや、ちょ、あぁ、参りましたね、これは……ゲココ」


 遅まきながら、飲みすぎには注意しようと誓うアカメなのであった。



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