466 アカメの冒険その11 真犯人
馬上槍試合の日がやってきた。
開催地はドーノッホから西に広がるサザーランド高原。
この高原にはホラズム卿の領有する村落がいくつも点在し、ホラズム卿の所有する威風堂々とした城も建っている。
その城の前は広大な広場となっており、そこにはひとつきほど前から準備に勤しんだ会場が設営されていた。
ロープや柵が張り巡らされ、即席の観覧席やら各地からやってきた行商やらがより良い陣地を確保しようと躍起になっていた。
「盛況みたいだねぇ」
額に手を当て会場を見渡すハクニーが眩しそうに声を張り上げた。
「ああ、ホラズム卿がおいでのようですよ」
アカメが言う通り、二人のもとに元気のなさげなホラズム卿がやってきた。
着ている衣服は上等だが、顔色はよろしくない。
右手に突いた杖にいくぶん寄り掛かり気味に立ち止まった。
目の下も黒ずんでいて明らかに睡眠も足りていないようだ。
「ごきげんよう、閣下。本日は天候にも恵まれ、またかような大観衆にもお集まりいただけたようで何よりです」
「聖賢者殿。あんたは気楽にそう申されるが、我輩は同じような心持ちとは言えませんよ」
「具合悪そうだね。大丈夫?」
心配げなハクニーの声かけにも自嘲気味に笑みをこわばらせる。
「体調など問題ではありませんぞ。結局いまだホワイト・ランは戻ってきてないのだ。いざあの馬がいないと知れれば、我輩は観衆によって半殺しにされてしまう」
「オッズはどうですか?」
「当然一番人気ですよ」
「ふむふむ。ところで閣下はホワイト・ランをひと目みればそれとわかりますよね?」
「なんという、こんな馬鹿げた質問を受けたのは初めてですよ。あの全身栗毛に立派な体躯。額の白い模様を見れば一目瞭然」
「なるほど」
会話しつつ一行は、一頭の馬の前へとやってきた。
アカメが案内したのだ。
「では閣下。どうぞお返しいたします。ホワイト・ランです」
「へっ?」
アカメの言葉にホラズム卿は素っ頓狂な顔をした。
目の前にいるのは立派な体躯をした全身栗毛の馬ではあるが、
「額まで真っ黒だ。これはホワイト・ランではありゃせんよ」
アカメが目配せすると、ハクニーがアルコールを含ませた濡れ布巾を馬の額に押し当てた。
「いい子ね。じっとして。すぐ終わるからね」
「こ、これは」
丁寧に拭いさると黒ズミは落ち、純白の毛並みが額に現れた。
「ホワイト・ラン! ホワイト・ランじゃあ! アハハハッ」
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馬上槍試合は盛況のまま幕を閉じた。
先年のエスメラルダとの戦、そして獣神ガトゥリンによる未曾有の危機を脱したハイランドにとって、新たな希望を見出だせる場となった。
多くの大騎士がいなくなってしまったが、次の世代は着実にその芽を伸ばしていたのである。
その事が明るみになった日でもあったのだった。
そしてもちろん、この日最も輝いた者のひとりにホワイト・ランがいたことは言うまでもない。
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「聖賢者殿。貴方にはずいぶんと無礼な態度をとってしまったこと、謝罪させてください。おかげで我輩は半殺しにされずにすみましたわい」
「よかったねぇ」
ハクニーがホワイト・ランを撫でてやりながら屈託のない笑顔を見せる。
それを眺めるホラズム卿の顔も穏やかだ。
今朝の死にそうな顔はたちどころに治ってしまったのだった。
「お嬢さんもありがとう。あとはキーヴィスを殺した犯人がはっきりとすれば、万事解決となりますな」
「そちらも解決済みです」
「へっ?」
アカメの言葉にホラズム卿は素っ頓狂な顔をした。
「犯人はすでに捕まえて、ここに連れてきています」
「ど、どこですと?」
「ここです」
「ここ?」
「閣下の目の前です」
そこにいるのはホワイト・ランだった。
「この馬がキーヴィス殺しの真犯人です。もっとも、正当防衛であるために、いくぶんと罪は軽くなるかと思いますが」




