461 アカメの冒険その6 現場にて
厩舎を出て荒れ地に向かう。
ほどなくするとすり鉢状のくぼ地に着いた。
くぼ地のヘリには藪が繁り、ひとつ背の低い枯れ木が立っていた。
「この木にキーヴィスの外套が引っかけてあり、くぼ地の底で彼は倒れていました」
「当日は雨が降っていたそうですが、風はどうでした」
「風は吹いていません。外套は飛ばされたのではなく、自ら引っかけたのです」
「確かですか?」
「確かです」
くぼ地の底はまだ水が完全に掃けてはいないらしく、地面は泥が溜まっている。
「頼んでおいたものはお持ちくださいましたか?」
アカメの問いにディエイ隊長はバッグから二つのブーツを出した。
どちらも片方ずつだ。
「こちらがキーヴィスの死体が履いていたブーツ。こっちはドワーフのチャドが履いていたものです。それとホワイト・ランの蹄鉄です」
「さて」
ブーツを確認するとアカメは泥の上に筵を敷いて腹這いになった。
ギョロギョロと目を動かし、辺り一面の泥を見渡す。
ディエイ隊長はその様を眺めつつため息をつく。
「聖賢者殿。ここら一帯は私と部下で徹底的に捜索しましたから、もうなんの手掛かりもありはしませんよ」
「あぁ、あった」
「えっ!」
泥に指を突っ込んだアカメが取り出したのは、黒ずんだマッチの燃え差しだった。
「いや……見落としていたなんて……」
隊長は罰の悪そうな顔をする。
「見当をつけてなくては、見落としても仕方ありません」
「あると思ってたと?」
「あってしかるべきと思いました」
燃え差しを隊長に渡しながら、まだ地面をキョロキョロとする。
「しかしこれは……犯人はもう逮捕していますし、これがいかばかりの手掛かりとなるや」
「隊長さんはもうそのドワーフが犯人だと考えてるんですか?」
ハクニーの質問に勿論と答える隊長。
「奴が現れたその晩にホワイト・ランが消えました。タイミングが合いすぎます。それにキーヴィスは頭部を鈍器で殴られた、頭蓋骨陥没が死因です。鍛治師のドワーフが常にハンマーを持ち歩くのはご存知でしょう」
ドワーフはすべからく職人であり戦士であるが、中でも戦斧と戦鎚を好む種族だ。
「つまりはこうです。よからぬ事を企みやって来たチャドは深夜に馬を盗み出したが、見回りに出たキーヴィスに見つかりここまで逃げてきた。しかし追いついたキーヴィスと格闘になり、持っていたハンマーで撲殺した」
「キーヴィスの太ももについた傷はやはり倒れたときに?」
「そうでしょう。倒れたさいに握っていたナイフで傷付けたようです。傷口と刃物のあとは一致していました。外套も格闘の前に動きやすいよう自分で脱いだのでしょう」
疑う点はないと隊長は言う。
「当直の夕飯に盛られていた薬はどうですか? 市販の入眠剤ですか?」
「実は……」
アカメの質問に少し隊長が言い淀む。
「麻薬でした。昨年マラガからハイランドに流れ始めたあの」
「ヴァニッシュ」
「そうです。眠っていた、というより酩酊状態に近かったかもしれません。少量であったためあの若者に後遺症はないものと思われますが。ですがそのヴァニッシュがチャドの荷物にもありました。盗賊ギルドとの繋がりを示唆しています。やはりホワイト・ランによからぬ細工をして儲けるつもりだったのでしょう。これが決め手です」
「私たちに任されたのはホワイト・ランの発見です。それについてはどうです?」
「捜索の範囲を広げていますが、依然みつかりません。格闘の最中に逃げたか、チャドが連れて行ったのかもまだ」
「今日まで見つからないのは不思議です。土地不案内のドワーフが何処に隠したのでしょう」
「仲間がいるのかもしれません。あるいはすでに殺されて、どこかの洞窟にでも捨てられているか」
「ねえねえ、隊長さん」
ハクニーが会話に割ってはいる。
「来る途中にもうひとつあった厩舎は?」
「アークライズ卿の厩舎ですね。もちろん捜査しました。あちらはホラズム卿の厩舎よりもデカいのですが、関係ありそうなものはなにもありませんでしたよ」
「そっかぁ」
二人からこれ以上質問がなさそうなので、隊長はブーツと筵をしまう。
「では戻りますか。ホラズム卿がお待ちでしょう。私もチャドの尋問に戻りたいのでね。なんならチャドに会いますか?」
「そちらはお任せします」
「戻られないので?」
「ええ。私とハクニーさんはしばらくこの荒れ地を見て回りたいと思います。地形を見ておくのも、捜索には大事ですから。あ、蹄鉄だけお借りしますよ」
「精が出ますな。ですがチャドを吐かせれば全て解決しますよ。ま、あまり遅くならないように」
「ハイランドは民主国家として生まれ変わりました。尋問のやり方には注意してくださいよ」
片手を上げて歩き去る隊長を二人だけで見送った。
夕暮れまではまだ時間がある。
「さてハクニーさん。少し歩きますか」
「う、うん」
馬の蹄鉄をポケットに突っ込みむと、アカメはディエイ隊長とは反対の方向へと歩き出した。




