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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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458 アカメの冒険その3 事件の概要


「行方知れずとなった名馬ホワイト・ランは五歳になる今まで、数々の称賛を浴びてきました。馬上槍試合(トーナメント)での活躍も華々しく、卿にとっても、この馬に賭け事を託す者にとっても、大事な資産であることは疑いがありません」

「ふむ」

「それだけに手に入れたいと企む悪漢や、あの馬がいなければという妬みを買うことも当然あります。したがって来週に迫った卿主催の馬上槍試合(トーナメント)にホワイト・ランがいないとなれば、さまざまな人物に利害関係が及ぶというわけです」


 方々に異論がないことを確認してアカメは続けた。


「である以上、卿の調教厩舎では行き届いた注意が為されていました。調教師は雇用して何年になります?」

「エニー・キーヴィス。十年ほどになる。馬の扱いに長けた男で、厩舎の傍に建てた家で妻とメイドひとりと暮らしておる」

「その下に若手調教師が三人いて、毎晩ひとりは必ず厩舎で寝ずの番、他の二人も厩舎の二階に寝泊まりしています」


 ホラズム卿の言を継いでディエイ隊長が補足してくれる。


「三人ともよく働いてくれておるよ」

「一番近い街までもそれなりの距離があるよね。みんな退屈しないの?」

「たまの休みには連れ立って街へ繰り出すこともあるが、おおむね彼らは馬と一緒にいる時が平穏だそうだ」

「ハイランドは騎馬民族ですからね。実に頼もしい者たちです」


 どうやらホラズム卿とディエイ隊長は若い調教師たちをたいそう買っているようである。


「もちろん、そんな彼らをまとめているキーヴィスの手腕も大したものさ」

「ですがそのキーヴィスなる調教師の死体が翌朝発見されます。場所は厩舎から離れた平原のくぼ地。その夜は雨が降っていましたが、キーヴィスが着ていたと思われる外套がそばの枯れ木に引っ掛けてあり、そしてキーヴィスは頭部を重い鈍器で殴られ死んでいました。他に何か目立った点はありましたか?」

「右足の太腿に刃物で切られた浅い傷がありました。キーヴィス自身が右手に握りしめていた小さなナイフに血が付いていたので、おそらく何者かと格闘をした際に切ってしまったと思われます」

「何者って?」


 ハクニーが割って入る。


「実はその晩、暗の九刻(午後九時)ごろですが、不審者が迷い込んでいました」

「チャドという名のドワーフです。その厩舎に詰めていた調教師ジョシュが言うには、ホワイト・ランが纏う馬用の鎧を押し売りに来たとか」

「ドワーフは細工師や鍛冶師が多いですし、ここから東はドワーフの領域ですからね。そういう事は多いのでしょう」


 ホラズム卿はうなづく。


「じゃがその手の話はほとんど突っぱねておる。鎧にどんな細工を施しているかもしれんからな。信頼のおける鍛冶師の者しか使わん」

「それで追い払ったと。その辺の詳しい話はあとで当事者たちに聞くとしましょう。とにかくドワーフは追い払いましたが、その報告を聞いたキーヴィス氏は雨の降る深夜、周辺の見回りに出たそうです。大事な馬上槍試合(トーナメント)が近いですしね。ですが翌朝、彼は残念な姿で発見されました」

「それだけではありません。厩舎からホワイト・ランがいなくなっていたのです。他の馬は無事でしたが、ホワイト・ランだけがです」

「寝ずの番をしてたんじゃなかったの? そのジョシュって人が」

「キーヴィスが戻らないのを心配した妻とメイドが厩舎に駆け込むと、三人とも眠っていました」

「寝ちゃったのぉ?」

「夕べ食べたものに薬が混入されていたようです」

「犯人はじゃあ……」

「ええ。ドワーフの身柄は我々が確保いたしました。しかしキーヴィス殺しも、馬泥棒も、夕飯に一服盛ったことすら否認しています」

「あんたらに頼みたい一番はホワイト・ランじゃ。あの馬を無事見つけ出してくれりゃあいい」

「きっとどこかに馬を隠しているに違いありません。もしくは仲間がいて、すでに国外に持ち出したか」


 事件のおおよそは以上の通りである。

 アカメはそれ以上何も言わず、馬車がホラズム卿の厩舎へ着くまでぼんやりと空を眺めていた。


「……アカメ?」


 隣に座るハクニーにだけ、アカメがボソッとつぶやいたのが聞こえた。


「夕飯はなんですかね……」


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