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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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457 アカメの冒険その2 無蓋馬車


 高原に伸びる白砂の道を、騎乗した数名の衛士に前後を守られた無蓋(むがい)馬車がゴトゴトと走る。


 アカメとハクニーが並んで座る向かい側には二人の男が座っていた。

 ひとりは壮年の貴族。

 もうひとりは中年の衛士。

 壮年の貴族はビルニ・ホラズム卿。

 父親は壮健でならしたリズミ・ホラズム卿であるが、惜しくも先年エスメラルダとの交戦において戦死している。


「よせばいいのに齢七十を越えていながら戦場に赴いたのですからな」

「愛国者であられた」

「いや、父は馬上で槍を振るう事を最上としていたに過ぎんよ」


 ホラズム卿はそう言って隣の衛士、ディエイ隊長に苦笑して見せる。


「まあ、故にこそ、我がホラズム家が主催する馬上槍試合(トーナメント)はハイランドいちの活況を見せるのだがね」

「来週でしたな」

「左様」


 馬上槍試合(トーナメント)とは大勢の騎士が馬上の人となり行う模擬戦である。

 一騎討ちをジョスト、花形(メイン)となる団体戦をメレと言う。

 模擬戦なので使用する槍の穂先は刃を丸めたり、先を尖らせていないにソケットを装着するのだが、それでも毎回死傷者は出る。

 基本相手を落馬させることが目的であり、混戦となれば気を付けていても馬に踏まれたりは起きてしまう。

 最盛期には従者も含め四千人以上が一時に参加したこともあるほどなのだ。


 もともと軍事演習の意味合いが強かった馬上槍試合(トーナメント)だが、騎士道精神が花開くと名誉が、資本主義が強くなると小さくない金額が動く大イベントと化していった。

 出場者に資格は必要ないのだが、いつしか参加料を払う事が当然となり、貴族なら十六万ガル、騎士階級でも一万ガル程度の金を支払う必要がある。

 当然一介の冒険者や流浪の傭兵に払える額ではない。

 そこで庶民は賭けに興じるのである。

 人気の騎士、人気の馬に賭ければ少なからず富を得ることもできる。

 中には大博打に買って富豪になった者まで居るという話だ。

 亜人戦争の敗戦国として貧困にあえいでいたハイランドの、数少ない浮上の機会を得られる時だった。


 出場する騎士にとっても得られるものは名誉だけではない。

 模擬戦といえど団体戦で打ち負かした相手の鎧兜をはぎ取り、相手が高貴な出の者であれば捕虜として身代金を請求することもできる。

 本来王族以外の貴族や騎士にとって、戦争とは領土争い、愛国心というよりも、名のある者を捕虜にして身代金を得る事の方が目的であったりするのである。

 なので自身が死ぬかもしれないという思慮は浅くなる。

 お互い相手を殺してしまっては人質として儲けを得られないからだ。


 馬上槍試合(トーナメント)とは戦のない時に行われる、模擬戦であり、名を挙げる機会であり、一攫千金を狙う場でもあった。


「わぁ、大きい。あそこに厩舎があるよ」

「あれはアークライズ卿の厩舎ですよ」

「へぇ」


 身を乗り出したハクニーが歓声をあげる。

 やはり馬は好きなようだ。


「ドーノッホは名馬の産地だが、この辺りには我輩とあのアークライズ卿の厩舎があるのみだ」

「いい馬がいそうだね」

「ですが馬上槍試合(トーナメント)では毎回ホラズム卿の馬がお勝ちになる」

「ありがとうディエイ隊長。左様、去年までうちの馬にはあの大騎士ジム・バイパーが乗っていたからな」

「ジム・バイパー。惜しい御仁でした」


 その大騎士も先の戦で戦死したのだ。


「それでも我輩のホワイト・ランなら誰が乗ろうが負けやせん。いくらでも稼いでくれるというものだ」

「そのホワイト・ランていう馬がいなくなっちゃった馬?」


 ホラズム卿が口をつぐんでしまう。

 ディエイ隊長の眼がサッと仕事の眼に切り替わる。


「その通りです。目下我々ドーノッホに駐屯している衛士が総出で探しているのですが」

「いなくなったのはいつ?」

「六日前の深夜です」

「調教師が殺されたんだって?」

「キーヴィス。忠実な奴だった」

「聖賢者殿は事件については?」


 それまで一言も発していなかったアカメにディエイ隊長が尋ねた。


「アカメで結構です。おおよそ伺っております」


 水を向けられたアカメだが、読んでいる本から目も上げずにそう答えたのみだ。

 聖都カレドニアを出て以来、アカメは少しの時間も無駄にせず、といった具合で読書に耽っていた。

 事件の捜査に全力を傾けているディエイは鼻白んだ。


 ミゾレ・カナンによる推薦との事で捜査協力を受け入れたが、実のところあまり期待はしていなかったのだ。

 そもそもよりによってカエル族に聖賢者の称号を与えること自体、ホラズム卿含めて懐疑的な者は多い。

 ハイランドは人間主体の国だ。

 かつては世界の盟主であったという自惚れもある。

 三十二年前の亜人戦争以前を知る世代には、まだよく見られる差別意識でもあった。


「私はあんまり、わかってないんだけどなあ」


 そう言いながらハクニーはアカメから本を取り上げた。

 ようやく顔を上げたアカメはため息をひとつつくと、両目の間を揉みほぐしながら「わかりました」と答えた。


「人に話して聞かせるのは自分の知る情報の整理、理解を進めるのに最適です。差し支えなければ私から今一度、事件の概要をお話してよろしいでしょうか」


 壮年と中年は揃って首を縦に振った。


「では。間違いがあれば遠慮なさらず御指摘ください」


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