453 ウシツノ三番勝負その7 妖術剣
刀を握るとハヌマンという新手を観察する。
仮面で表情が見えない。
ユラユラと刀を振っている。
柄頭を軽く握り、左手を起点に、右、左、右、左、と半円を描いている。
膝を曲げ、肩を上下に揺すり、呼吸に合わせて、全体的に円の動きを続けている。
(捕らえどころのない。こういう手合いは呼吸を読まなくては)
「エフッ、エフゥ、エフッ、エフゥ」
吸って、吐く。
吸って、吐く。
短くも長くもない呼吸。
「エフッ、エフゥ、エフッ……」
吸って、一拍止まった。
(来るッ)
「ッ!」
ガィィッン!
ハヌマンの打ち込みを刀で防いだ。
速い。
だがタイミングは想定通り。
「なんだ?」
何故だか違和感が拭えない。
(集中だ)
続けて打ち込んできた。
ギィィッン!
「またッ」
今度もちゃんと防いだ。
だが違和感とにじり寄る危機感は増している。
(もっと集中しろってことか)
ウシツノの狼狽は傍目にも明らかだ。
「ハヌマンの妖術剣に掛かったようだな」
「妖術剣デシって?」
「そうだ。ハヌマンの妖刀役小角。相手が達人であるほどに、その術中に嵌まる」
どうにも気持ちの悪い打ち合いだった。
全てを防いでいるはずが、徐々に何かに追い詰められている感覚がしてならない。
「次ッ」
ギィィン!
「よし! 防いッ」
ザシュッ!
防いだと確信した斬撃がウシツノの左肩を薙いでいた。
「うっ、くぅ」
さらに二度、三度、剣激がこだました後からウシツノの肩や腕に斬撃が見舞われる。
「どういう事デシッ! 斬撃が遅れてやってきてるデシ」
「エフッ、エフッ!」
ハヌマンの突きを自来也が弾く。
するとウシツノの右目瞼がパックリと裂けた。
咄嗟に首を逸らさなければ致命傷になっていた。
「エフフッ、エッフフフ」
喜悦を浮かべてハヌマンは攻撃を繰り返す。
「ったく! そういうことか」
しかし今度はウシツノからも前に出た。
「そこッ」
ガッギィィィッン!
自来也はハヌマンの剣の鍔元を強打した。
「エフッ」
「武器破壊デシ」
「いや、違う。奴め、見切ったか」
ウシツノの一撃でハヌマンの剣が止まった。
その刃はとても薄く、わずかにだがしなっていた。
「そのブレがオレの見きりを狂わせていた。種が知れればどうってことない」
ボグッ!
「エフフゥ……」
剣の腹で横っ面を殴打すると、ハヌマンはあえなく失神してしまった。
「派手な仮面や奇妙な動きも感覚を惑わすためだったんデシね」
「次はお前の番だぞ」
ウシツノがちょいちょい、とシバに指を向ける。
「フッ」
シバは前へと一歩出た。




