452 ウシツノ三番勝負その6 嘘
「やられたな、トゥカイ」
「シバ……くっ」
地面を舐めるトゥカイとは反対側に、先ほど出会った他の二人も姿を現した。
「零距離で全身の関節をフル稼働し、かつ相手の勢いを上乗せした掌底。威力は見ての通りか」
どうやら二人の対決を見ていたらしい。
「それプラス、カエル族の地面を蹴る跳躍力も乗っているデシ」
バンが得意満面で捕捉する。
「なるほど。瞬時にそれを繰り出す度胸は大したものだ」
シバと呼ばれた短髪の男が、ウシツノの自来也を拾い上げた。
「貴様の足跡を検分した。親指の付け根で摺り運ぶ歩法。よくものにしている」
「そりゃどうも」
シバは角度を変えつつ、しげしげと自来也を品定めする。
「戦場で剣を投げ捨てるなど、思いきったことをする」
「…………」
「大周馬自来也。名工、周馬オガタの傑作だ」
「シュウマ?」
シバが自来也からウシツノに向きなおる。
「我らが地、ホウライ国はラサの里におわした刀鍛冶の名だ」
「ウシツノはそういうことに疎いデシ」
「し、仕方ないだろ。自来也のこと、親父に聞く暇もなく受け継いだんだ」
「父親は亜人連合クラン・ウェル将軍。カエル族にしては巨体の主で、この厚みのある刀も軽々と扱ったそうだな」
「親父のことを知ってるのか?」
シバの目付きが鋭くなる。
「ああ、よく知ってるさ。この自来也を持ち出した、盗人だからな」
ウシツノの顔が強張る。
「なんだと」
「周馬オガタはオレの師だ。師がどんな人かはオレが一番知っている。自来也ほどの刀を国外に放出することを認めるわけがない」
「だから親父が盗んだというのか?」
「そうだ。里に現れ、人のいい面を見せ、騙し盗ったのだ」
「違う! 親父はこの刀を友から譲り受けたと言っていた」
「師が譲るはずがない」
「親父が嘘を言ったというのか!」
「言ったろう。師がどんな人かはオレが一番知っていると。お前の親父は嘘をついたのだ」
「そんなわけあるか! 親父の事を一番知っているのもオレだ! お前じゃない」
するとシバを遮るように、ス、と派手な仮面を着けた猿人族の男が前に出た。
腰からスラリと刀を抜く。
「ハヌマン」
「エフッ、エフッ」
「よし。次はこのハヌマン・ラングールが相手をする」
言葉を発しようとしない猿人族に代わり、シバが宣言する。
「勝手だな」
シバは自来也をウシツノに投げ寄越した。
「今一度お前に持たせてやる。振るう資格がある事を証明してみせろ」
「偉そうに」
自来也を受け取ったウシツノは、続く対戦相手を睨みつけた。




