451 ウシツノ三番勝負その5 速さ
サーベルウルフの肩を足で押しながら刀を引き抜く。
刃はどろどろとした赤黒い血を滴らせた。
「やれやれ。また刀を研いでおかないといけないな」
「油断するからデシ。剣聖と呼ばれるようになって慢心してるからデシ」
「別にそんなつもりは……て、イテテッ」
「見せるデシ」
バンがウシツノの右腕を持ち上げ傷口を確かめる。
「これぐらいウシツノならすぐ治るデシよ」
「ああそうだな……ッ」
突然、ウシツノがバンの足を掴むと強く放り投げた。
顔を地面に打ち付けバンは悲鳴を上げる。
「イッタ! 何するデシ、ウシツノ」
ガィィッン!
バンが顔を上げると、そのウシツノが空から急襲してきた鳥人族の剣閃を受け止めていたところだった。
「なっ、なんデシか!」
「よく止めましたね。なかなかの反応速度です」
「お前は、確かさっきいた……」
鳥人族は剣を引くと構わず連続で斬りつけてきた。
小振りな体に合わせたように、剣もまた小振りである。
その分繰り出す連撃が速い。
慌てて立ち上がりながらウシツノは自来也で必死にその斬撃を撃ち落とした。
「トゥカイと申します。この剣は僕の愛刀で飛加藤といいます」
「飛加藤?」
「参ります」
トゥカイと名乗った鳥人族の剣士が、間合いを詰めると恐ろしい速さの連撃を再開した。
「うわッ! お、おい待て! いったいなんのつもり」
戸惑うウシツノはトゥカイの剣を捌ききれない。
二発、三発と剣がかすめる。
二の腕や頬に切り傷が増える。
「何してるデシ! ウシツノ反撃デシよ」
「くっ」
「他愛ないですね。スピードではだいぶ僕より劣る。剣聖の名が泣くんじゃないですか?」
「なんだと」
「やはりその小さな体躯に自来也は重すぎたようですね。あなたには相応しくない」
「なにッ」
剣の鋭さが増す。
あまりの速さに、端から見ているバンには一撃にしか見えないが、実際は一挙動で三撃は打っている。
さらにトゥカイの速度が上がる。
「これで終わりですね」
「速さ勝負がしたいならッ」
二つの影がぶつかり合う。
ドッ!
「ぐふっ」
吹っ飛ばされたのはトゥカイだった。
ウシツノは腰を沈め、右の掌底を突き出していた。
自来也は後方の地面に投げ捨てられている。
「ガマ流刀殺法、無手ノ奥義・楓」
「よくやったデシ!」
バンがガッツポーズで雄叫びを上げる。
「ぐはっ。間合いに入れば剣を捨てた方が、速い。けどまさか剣聖のクセに」
「覚えとけ。剣が巧いだけじゃ剣聖は名乗れない」
『わしゃあ武芸百般で鳴らしとるんじゃ』
「武芸百般。それが先代から課された、剣聖たる最低条件だ」
「くそっ、ゲホッゲホ」
悔しさからトゥカイは地面を叩いた。




