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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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450/721

450 ウシツノ三番勝負その4 サーベルウルフ

 廃村は切り立った岩の隙間を縫うように家々が密集していた。

 土壁を塗り固めてこしらえた家や、岸壁をくりぬいて居住スペースを確保した家もある。


「おそらく風をしのぐためだろうな」


 少し峠を登る形でこの廃村にたどり着いた。

 途中風が強く、足を踏ん張っても吹き飛ばされそうな瞬間もあった。

 いや、実際バンは吹き飛ばされ、寸でのところでウシツノが尻尾をつかみ事なきを得たのだ。


「中はあったかいデシ。この地方ではこれが当たり前だったんデシね」

「ああ。けどなあ」


 ウシツノは顔をしかめる。

 その部屋の隅には明らかに、危険な生き物による食い散らかした跡がある。

 冒険者らしい衣服の残骸と、肉のこびりついた骨、黒く染みになった血の跡。

 すでに男か女か、人間か亜人かも判別つかない。


「ここに現れるのは間違いないようデシ」

「どっちみち外で待機だ。まずは近場の水辺へ行ってみよう」


 村の通路に沿う形で枯れた用水路が走っていた。

 水源と思われる方へ向かう。

 さらに少し登った所で村の外れに行き着いた。

 わずかばかりの草花が咲く小さな泉があった。

 人のいない荒野にある廃村で、わずかばかりの草花が生命を感じさせてくれるはずだった。


「話が早くて助かる」


 刀の柄に手を触れて、ウシツノがひとつ深呼吸した。

 そこに寝そべっていた大きな獣がピクリと耳を動かすと、ゆっくりと首をこちらに巡らせて起き上がった。


「デカい狼デシね。どうやらサーベルウルフの方みたいデシ。いけるデシか?」

「狼退治は慣れてる」


 ハイランドではイヤと言うほど蒼狼(バル・カーン)と戦った。


「それにお前の方のがよっぽど恐ろしいって」

「失礼デシ」


 バンの正体も白い大きな獣である。


「グルルルルッ」

「よし。では依頼を始めるとするか」


 自来也を抜き正眼に構える。

 サーベルウルフの目を見つつ、四足の筋肉を注視する。

 筋の動きを見定め、獣が動き出す瞬間を待つのだ。

 獣を相手にする時は下手にフェイントや技術を考えない。

 大切なのは呼吸とタイミングだ。


「フゥーッ」


 鼻から小さく息を吸い、数秒止めて、大きく口から吐く。

 焦りを持たないよう出来るだけ長く吐く。

 不思議と心が落ち着いてくる。

 痺れを切らしたのは向こうの方だった。


「ガウゥッッッ!」


 土をえぐりながら大地を駆ける。

 前足の爪で引っ掻いてくるが軽く横に跳んでかわす。


 「うぉッ」


 同時に首を伸ばして噛み付きにくる。

 下顎を蹴りあげて口を閉めさせる。

 一回転して着地すると、今度はこちらから刀を振り上げつつ突進する。

 下顎から顔面を両断してやるつもりだったが、サーベルウルフも勢いを殺さず大きく前方に跳躍することで刀をかわしてみせた。


 再び距離を開けて対峙する。


「なるほど。パワーも反応速度も秀でている。ちょっとデカい狼などと侮ってはいけないな」

「グルァッ」


 またしてもサーベルウルフから突進してきた。

 両の前足で交差するように引っ掻いてくる。

 ウシツノは上から跳び越えつつ背中を斬ろうとした。



ザシュッ!



「ッ!」


 血を流して倒れたのはウシツノの方だった。

 右肩から地面に倒れ込む。

 血を流しているのは右の脇腹のようだ。


「くっ」


 見るとサーベルウルフの背中から三本の(ブレード)が突き出ていた。

 右と左、そして上方に伸びる刃は身体から刀を生やしているようだ。


「なるほど……サーベル……ウルフね」

「バッカ、ウシツノ油断したなデシッ」


 膝を着き、立ち上がろうとするウシツノにサーベルウルフが襲いかかる。

 身体を捻り右横の(ブレード)で薙いでくる。



ギャリッ!



 自来也を立ててその一撃を防ぐ。

 刀の峰に右腕を沿えるが、斬られた脇腹が痛み力が入らない。

 無理に堪えるのをやめ、力に逆らわずにむしろ自らも後方へと跳躍した。

 大きく体が吹き飛ばされる。


「ウシツノッ」


 地面に膝をついたウシツノに、サーベルウルフが大口を開けて飛びついた。



ドシュウ…………



 口腔を突き破り、真っ赤な鮮血に濡れた刃が後頭部から突き出ていた。

 まっすぐ腕を伸ばし、刀を真正面に突き出している。

 地面に座り込んだまま、ウシツノの腕は手首までサーベルウルフの喉奥に突き込まれていた。


「ふぅ」


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