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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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449 ウシツノ三番勝負その3 獅子骨峠


 ウシツノはちょうど峠道の頂で立ち止まった。

 意外と周囲は折り重なった岩の壁が多く、風を防いでくれる代わりに視界も塞いでしまう。


「馬車が行くには案外楽そうではあるが」


 相手が獣とあってはこの環境は油断ならない。


「ウシツノもお人好しデシねぇ。魔物退治してるヒマがあるデシか?」

「断れないだろ、あの状況で」

「別に、ごちそうさまデシた、って帰ればいいんデシ」


 一介の冒険者であったならウシツノもそうしたかもしれない。


「剣聖の評判を気にしたデシね。ったく、前任者を思い出してみるデシ」

「あ、うん」


 前剣聖グランド・ケイマン。

 腕は一流であったが、その性格は決して人格者足り得なかった。


「まあいいじゃないか。どうせアマンの行方もわからないんだ。仕事としての報酬も出るし、剣の鍛練にもなる。鍛えておいて損はない」

「はいはいそうデシね」


 油断なく峠道を歩く二人だが、真っ昼間の昼下がり、魔物どころか人の気配も何もない。


「魔物が出ると言われて旅人が通るわけもないデシ」

「とりあえず荘園があるというヒグレリの村へ向かうか。魔物に出会えなければ数日、そこを拠点に考えねばならないし」

「どれぐらいデシ?」

「徒歩でも夕方には着けるだろう」

「バンがでっかくなって飛んでいくデシか?」

「村人がビックリするぞ。途中で魔物と出会えるかもしれないし、ゆっくり行くさ」

「よかったデシ。あれやるとお腹が空くデシ」

「待て。馬車だ」


 峠の頂から見下ろすと、こちらへ向かってくる一台の荷馬車が見えた。

 御者台に二人、荷台にも二人乗っているのが見える。


「荘園の人たちじゃないか?」

「でも荷物の輸送には見えないデシよ」


 向こうもこちらに気づいた様子で、少しスピードを緩めつつ近づいてくる。

 馬車を操る御者は農夫に見える。

 ウシツノは御者の隣に座る者が気になった。

 農民という佇まいではない。

 御者と同様に人間の男だが、眼光鋭くこちらを睨み付けている。

 威嚇しているのではなく、つぶさに観察している。そんな印象だ。

 身長はウシツノより五〇は高そうで、一八〇に満たないぐらいか。

 それでも背筋をまっすぐ伸ばし、全身ほどよくついた筋肉を見るに、実際よりも大きく見える。

 短く刈り込んだ黒髪、黒瞳、額には黒鉄の鉢金を巻き、ウシツノと同様和装に近い旅装束だ。

 そして腰には刀を()いている。


 後ろの荷台に乗る二人も似たような旅装束をまとっていた。

 ひとりは体つきを見るに猿人族(ショウジョウ)だろう。

 大分小柄だが、その分腕が異様に長い。

 しかしもっと異様と言えるのが、顔を隠す木製の仮面を着けていることだ。

 赤や青、黄色に緑ととても派手なカラーリングで、口の部分は下顎から二本の牙が上を向いて伸びていた。


「エフッ、エフッ」


 肩を上下にしながら奇妙な呼気を発している。

 それとも笑っているのだろうか。


 最後のひとりは鳥人族(バードマン)だった。

 これまた小柄でウシツノと大差ない。

 緑色の頭部にくすんだグレーの羽をしている。


 そして三人ともが腰に刀を帯刀していた。


「こりゃ珍しい。カエル族のお人がこんな所でどうなすった? この先にはヒグレリの村しかないよ」


 先に御者が声を掛けてきた。

 こちらはいたって普通の農夫といった感じの男だ。


「魔物退治を頼まれてきたんだ。ここいらに出るのだろ?」


 農夫は驚いた顔でウシツノを凝視した。


「そりゃあそうなんだが。こう言っちゃあなんだが、おめえさん、そんなに強そうに見えないだ。止めといた方がいい」

「はは……まあ、そうもいかなくてな」


 ポリポリと頬を掻く。

 バンは目線を反らし何も言わない。

 ややこしくなるので黙っていてくれる分には有り難かった。


「丁度このお三方も魔物退治の依頼を見て来てくれてるだ。武者修行の旅をなさってる言う東方の剣士さま方だで」

「東方……」


 ウシツノが見ると短髪の男は目を閉じ静かに佇んでいた。


「なまなかな冒険者じゃ返り討ちにされてたけんど、この方たちなら勝てそうだで。んでちょっくらこの峠周辺を案内しているところだでよ」

「そうか。でもまあ引き受けた以上、何もせずに帰ることも出来ないんだ。魔物が潜んでいそうな場所を教えてくれると有り難い」

「そったら……」


 農夫は何か所か思い当たる場所を教えてくれた。

 自分たちもそれらを順繰りにまわるつもりでいるそうだ。


「なるほど、廃村があるのか。泉もあると言うなら確かに居そうだな。そこから行ってみるか」

「もう止めはしないが、気を付けるだよ」

「ありがとう。あんたらが襲われないよう、なるべく早くオレが退治してみせるさ」


 荷馬車を後に道を外れ、ウシツノとバンは廃村があるという荒れ野を行くことにした。


「本当に大丈夫なんかな、あんな小さな体つきでなぁ」


 そう言う農夫を尻目に、短髪の男が御者台から降りると、膝を着き地面をじっと見つめた。


「エフ、エフフッ」

「そうだねハヌマン。僕たちは運がいい。あれは間違いなく、自来也だ」


 荷台の二人が地面を観察する男を見る。


「フフフ」

「どうなの、シバ?」


 地面を見てニタリと笑う短髪の男に、鳥人族(バードマン)がシバ、と再び呼び掛ける。


「ああ、なかなかの手合いのようだぞ」


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