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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第五章 怪神・円環編

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446 広野を行く


ズシャッ。


「いたぁ」


 シオリはしりもちをついていた。

 とうに変身は解けている。

 ハイランドを出発した時の軽装に戻っていた。

 地面についた手のひらから、ゴツゴツとした岩肌の感触が伝わる。

 日の光に照らされて、少し暖かかった。


「外だ。戻れたんだ」


 ゴルゴダ・ラボの地下迷宮、衛星軌道上の浮遊要塞ゴルゴダ、そして魔女の開いた闇の世界。

 一日の間に目まぐるしく移動した。


「はぁ」


 宇宙に行った時はどうなるかと思ったが、最終的に戻れたようでホッとひと息つく。

 とはいえ見渡す限りの広野である。

 ここが何処なのかもわからない。


「おそらくエスメラルダとアーカムの境でしょうね」


 オーヤの声が聞こえたので振り向いてみた。


「えっ! 誰?」


 そこにはこれまた変身が解けて薄桃色のスーツ姿で座り込んでいるマユミがいた。

 膝に肘を立て、頬杖を突いて上目目線でいる。


「そうよね。コイツのこと、よく知らないけど、私もちょっと驚いたもの」


 そうつぶやくマユミの視線の先、彼女の頭の上にそれはいた。


「もしかして、それ、オーヤ……さん?」

「それ、とは失礼しちゃうわね」


 バサッ、と大きな羽をシオリの眼前に突きつける。

 マユミの頭の上にそれは鎮座していた。

 上面は黒色、下面は金色の羽毛をした、一羽のフクロウであった。


「ご、ごめんなさい。だって、フクロウだったから」

「あ、それでさっきのネコ貴族、姿が変わったって言ってたの?」


 マユミの言うネコ貴族とはマグ王のことである。


「でもなんでフクロウの姿に……」

「少しマナを使いすぎただけよ。そのうち元の姿に戻れるわ」

「ふぅん」

「あの……」


 シオリが周囲を見渡しながら、フクロウにおずおずと尋ねる。


「アカメやシャマンさんたちは?」


 見える範囲にはいないようだった。


「大丈夫よ。私たちと同じように、どこかの座標軸に放り出されているはず」

「それならいいけど……」


 旅慣れたシャマンたちと共にいるなら、アカメの心配は無用だろうとシオリは考えることにした。


「さて、そろそろわたし、行くね」


 マユミが不意に立ち上がったので、オーヤはシオリの肩へと飛び移った。


「シオリはハイランドに戻るでしょ。わたしは別に行きたい場所があるから」

「え……」

「数日前にね、ズァの奴がこぼしてた」


『そろそろ藍姫と紅姫あたり、刈り取る時期やもしれん』


「その時は何も思わなかったけど、まあ自分のことすらままならなかったわけだし」

「アユミさんを探しにいくんですか?」

「う~ん」


 少し首を傾げつつ、マユミは少し言葉を探しあぐねた。


「紅姫がわたしの娘って言われても、正直ピンと来ないのよね。だってわたしの知ってるあの娘はまだ、ほんの赤ん坊なんだし」


 マユミが懐かしむような目で遠くを見つめる。


「でもね、やっぱりわたしの娘みたい。だったら守ってあげなくちゃ」

「マユミさん」

「ズァはきっと生きてる。ううん、ズァでなくてもあの娘を狙う奴はいくらでもいるはず」


 チラ、とマユミはオーヤを見た。


「あの娘の居場所は知らない。でも藍姫なら知ってる。アーカムっていう場所にいるんだよね」


 シオリにマユミを止めることはできなかった。

 あのズァとまた戦うつもりでいるのだから、せめて一緒に……。


「アンタは別の用事があるんでしょ」


 そう言って、マユミは行ってしまった。

 南へ。

 より荒れた赤い土の広野の先へ。


「で?」


 今まで黙っていたオーヤがシオリを促す。


「で、って?」

「とぼけても無駄。レイの所へ行きたいんでしょ」


 その通りだった。

 ハクニーやみんなが心配しているだろう。

 一旦ハイランドに戻るべきなのかもしれない。

 そうすればアカメと合流できるかもしれないし、アカメが一緒にいてくれれば何も悩む必要もなくなる。


「でもそれじゃダメ」


 自分で決めて、自分で責任を負わないと。

 アカメだったらどうするだろう。

 アカメだったらきっと、今の自分と同じ決断をする。

 アカメのように考えないとダメなんだ。

 でないとレイに会う資格もないと思った。


「じゃあ行きましょう」

「え? ついてくるんですか?」


 あからさまにシオリが嫌そうな顔をする。


「正直な顔するのね」

「だってぇ」


 マグ王に敵対心を抱かせているオーヤがいては、レイに会うのはますます難しくなると思う。


「マグ王の城が何処にあるか知ってるの? 断言するけど、その辺で尋ねても誰も知らないわよ」

「うっ」

「それに通常の足でもたどり着けない。セヘト・イアルはこの世界と地続きではないのだから」

「そうなんですか? 一体何処にあるんです」

「昼と夜の境界線上よ。招かれでもしない限り、人間がいきたまま行けるような場所じゃぁないわ」

「むむむ」


 やっぱりアカメを頼ろうか。

 そんな思いが頭をよぎっていたのだが、オーヤは出発の合図を出す。

 シオリの肩に止まりバサバサと羽を鬱陶しく振っている。


「はいはい、わかりましたよ。案内よろしくお願いします」


 シオリも広野に歩を踏み出した。

 とりあえずは西に進路をとる。


「ところでオーヤさんは何しにゴルゴダに来てたんですか?」


 結局のところ、あれだけの激戦を演じながら魔女の目的すら見えていないのだ。


「欲しいものがあったのよ」

「なんですか?」

「……いつか教えてあげるわ」






第五章 怪神・円環編〈了〉

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