445 強制解除
「マグ王…………」
「お久しぶりです。ユウ。いえ、オーヤ」
光の靄に包まれた、猫の頭をした貴族。
物腰は一見柔らかそうだが、しかしこちらを見下ろす瞳は鋭い。
「四百年ほど経ちましたか」
「そうね。だいたいそうね」
「ふふ」
マグ王が笑う。
「ずいぶんと姿が変わりましたが、ご健在のようでなによりです」
「ありがと」
「しかし姫神と言えど人間の寿命を大きく越えることはありません。その執念とでも言いましょうか、やはり貴女は特別だった」
「ブルーカーバンクルを盗み出したこと、まだ怒ってるのね」
「確かにそれもありますが」
ふぅ、とマグ王がひとつ息を吐く。
「それ以上に我々の邪魔をしたことが許せません」
マグ王の言葉はとても静かなものであったが、内に押し込めた怒りのほどをシオリは敏感に感じ取っていた。
マユミも同様、状況が飲み込めず、二人のやり取りを見守る以外どうしようもなかった。
ただ、どうやら不穏な情勢は翻せそうにない事はすでに覚悟していた。
「邪魔なんてしてないわ」
「空間を航る貴女の力は大いに評価していたつもりでした。だが甘かった。よもや<心>の施す<姫神召喚の儀>にまで干渉できるとは思いませんでした」
「あらあら。それは甘かったようね」
「貴女の力はもはや神にまで及んでいるようです。おかげで私どもがお迎えするはずだった黒姫を、まんまと貴女にかっさらわれてしまいました」
レイのことだろうか。
シオリは必至に会話に着いていこうと想像を巡らす。
「さらに貴女は我々の目から一年以上も黒姫の所在を隠しおおせた。素直に感嘆いたしますよ」
「でも今はそちらにお邪魔しているようね。私の黒姫」
「ええ。我らの黒姫ですのでね」
「なら迎えに行くわ。保護してくれてありがとう、マグ王」
「最初に言ったはずです。あなた方の我が城への入城はお断りさせていただくと」
パチン、とマグ王が指を鳴らした。
突然シオリは足元から更なる暗闇に落下する感覚を味わった。
見上げていたマグ王が光と共にみるみる小さく遠ざかっていく。
「貴女の黒の門は強制解除させていただく。以後、いかなる理由があろうと、深谷レイに近付くことを許しません。あしからず」
マグ王のセリフをシオリは最後の方は上手く聞き取れなかった。




