437 ヒーラーは後衛
はじめ足首を掴まれてギョッとしたシオリだったが、その主を見てすぐに安堵する。
精一杯腕を伸ばし掴んでいたのは薄桃色のドレス姿に変身したマユミだった。
彼女を拘束していた枷が切れている。
それはシオリの稲妻が縦横に走った結果のようだ。
さらにズァに吹っ飛ばされた方向が、まさに彼女のいた位置だったという幸運。
「天が味方しているのです」
アカメならきっとそう言うだろう。
「マユミさん!」
喜色満面のシオリにマユミが頷く。
するとシオリの腰に吊っていた鞭がひとりでにマユミの手元へと収まった。
シオリの身体を通じ、マユミとマユミの神器、龍騎が繋がったのだ。
「マユミさん」
シオリはホッとしていた。
まだ過去最強の敵を前になんら打開策はないというのに、マユミが復活したことをとても頼もしく思えていた。
いつの間にか同じ姫神、同じ境遇の女として、心が依存していたとて、誰もこの十八歳の少女を責めることは出来まい。
マユミもそのことを察していた。
少なからず年長者としてシオリを気にかけているのだ。
「シオリはサポートをお願いね」
「サポート?」
「回復役は後衛がお決まりでしょ」
「はぁ」
ピンと来ていないシオリに眉根を寄せたマユミが、ああ、と嘆息する。
「あんたゲームとかしないんだったっけね。ごめん」
マユミはズァへと視線を変えると一閃、ビュン、と鞭を振るう。
一条だった鞭が数十条に増えていた。
「ズァ! 東京タワーでのリベンジさせてもらうからねッ」
「二人になったとて無意味だ。反姫神システムを崩すこと叶わぬ」
「反?」
「アンタのシステムとか知らないけど、勝手に巻き込まないでよね! まとめてぶっ壊してやる」
シオリの疑問も威勢よく返すマユミにかき消される。
桃色の髪と薄桃色のドレスをはためかせズァへと飛び出した。
「速いッ」
シオリが驚くほどのスピードだった。
自分にはあの速度で飛翔できる気がしない。
ズァが大砲ならマユミはライフルだった。
ズァも目を見張った。
「肉体の強さに由るのではない。周囲の風を操ったか」
「ご名答!」
森羅万象、あらゆる万物を操る桃姫のチカラ。
マユミは旧きモノの覚醒を経て、その際限が計り知れなくなっていた。
「だがそこが限界。もう貴様に伸び代はない。桃姫」
「節穴が何をッ」
マユミの鞭が空間いっぱいに広がった。
前後左右上下から錐のように突き刺す攻撃が怪物に襲い掛かった。
すべての鞭がさらに捩じれ、回転まで加えている。
「くだらんッ」
「さあどうかしら!」




