436 桃色の光
無数に爆ぜる。
小さな爆発が連続して起きる。
強烈な電撃が天井を駆け抜け、光と轟音を奏でている。
「貴様……」
ギロリと睨みつけてくるズァの表情が硬い。
ひょっとしたら、本気で激昂したズァを目の当たりにした人間は初めてなのかもしれない。
目眩ましによる時間稼ぎ。
シオリが稲妻光線を放った意図はその程度だった。
しかし思いがけず相手の逆鱗に触れてしまったようだ。
「仕出かしたな。よもや無事に済むとは思うまい」
必死に怒気を抑えている。
シオリは状況を捕えかねていた。
それほどの禁忌に触れてしまったのだろうか。
「別に、生きてさえいればいいのだ。貴様の五体が満足である必要はない」
シオリは心底から慄いた。
姫神であるという自分の価値を計り違えていたのだろうか。
「ゴァッ」
だが悠長に悩む暇など与えてはくれない。
大鉈を構えて、発射された砲弾の如く迫るズァに戦慄する。
「ルシフェルッッッ」
回避行動を取る余裕はなく、剣で受け止めきれる自信もない。
シオリの口から咄嗟に出たのは自身に宿る旧きモノの名。
輝かしきは明の明星。
身体からまろび出る白光に包まれるや、瞬く間に煌びやかなドレス姿へと変身する。
「覚醒とて無意味ッ」
ズァは意に介さない。
ガツン、と重たい衝突音がした。
「く……」
「ガァッ!」
大鉈を受け止めたシオリだったが、さらにそこから再加速するズァの突進に吹っ飛ばされる。
「キャアアアッ」
悲鳴を上げることしか出来ず、シオリは制御不能のまま天井に突っ込んだ。
背中を強打した際に目いっぱいの呼気と血が喉の奥から飛び出した。
力なく瓦礫からずり落ちるシオリになおもズァが迫る。
「ッ」
恐怖と痛みをこらえながらその場を離れようとしたシオリの足を何かが掴んだ。
驚いて足首を見る。
その首の一動作がこの戦いでは致命の瞬間となる。
「覚悟せいッ! 白姫」
「転身! アフロディーテ」
だが幸運はまだシオリを見捨てはしなかった。
白光とせめぎ遭うほどの桃色の光が弾けた。




