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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第五章 怪神・円環編

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430 大いなる存在


「シオリさん、我々は向こうです」


 少しだけ巻き戻す。


 レッキスの疾走に加勢しようとしたシオリを止め、アカメは逆の左側を差し示した。

 シオリがその先を確認する。


「予想通り、持ってきた()()が無駄にならなくて済みました」

「うん」

「彼女の戦力は今絶対に必要です。頼みましたよ」

「でも……」


 シオリが心配そうにアカメを見つめる。


「私のことはお気になさらず。あなたのガンバリが私の安全を保証してくれると思ってください」


 力強く頷くと、シオリは背中の羽を大きく広げ飛び上がった。

 一旦空中で静止すると、バサバサと耳障りな羽音で群がる夜鬼(ナイトゴーント)どもを蹴散らしながら旋回する。


 見るとレッキスはミナミにたどり着き、同じく群がるナイトゴーントどもを追い払っているところだった。


「もう少し耐えて。わたしは」


 視界にマユミを捕らえると、一転、降下体勢に入る。

 ナイトゴーントどもはシャマンたちに気をそがれ、マユミの周囲は手薄に見えた。

 

「よしッ」


 一度だけ羽ばたいてから、全速で降下する。



 ゴゴッン!



 その時に衝撃が走った。

 マユミとミナミのいる磔台が、大きく床からせり上がったのだ。


「あそこじゃ! 巨大な目がある」


 クルペオの声にシオリも天井を見上げた。

 確かに巨大な目玉が闇に浮いていた。

 その目玉から幾つも伸びたチューブがマユミとミナミに繋がっている。


「あっ!」


 するとマユミとミナミが縛られた磔台がより大きく隆起した。

 床を割って、のたうつ太いチューブが現れる。

 そのチューブの先端が二人の磔台であった。

 それはまさに、目玉から生えた太い腕のようであった。

 両腕の先にマユミとミナミを繋いだまま、目玉は光の届かない上空の闇へと上昇を始めた。


「うあっ」


 目玉がミナミを縛った方の腕を大きく振り回した。

 しがみついたままでいたレッキスが振り落とされてしまう。


「ンンッ!」

「ミナミッ」


 強烈な遠心力で振り落とされたため、手が離れた瞬間、ミナミはレッキスの手が届かない遠くへと離されてしまった。


「レッキスさんッ」


 落下するレッキスをシオリが受け止めた。

 衝撃を殺すためにキャッチの瞬間、羽をたたみ数メートル自由落下する。

 ますますミナミが遠のいてしまう。


「シオリ! ミナミが」

「わかってます。追いかけましょう。掴まっててください」


 再び羽を広げると、シオリは今度は全速で上昇を開始した。

 レッキスがシオリの腰にしっかりと腕を回す。

 マユミとミナミを連れたまま、目玉は止まらずに上へと昇り続ける。

 追いかける二人に向かって触手のようなチューブが何本も殴るように飛んできた。


「ヤバイんよ!」

「掴まってて」


 串刺しにしてやる、という意思が感じられるチューブを掻い潜りながら、シオリは目玉に肉薄していた。

 一本でも当たればたちまち身体が引き裂かれてしまうだろう。

 止まらない冷や汗に恐怖を覚え始めたレッキスだが、不思議とシオリの身体から勇気が分け与えられている気がした。


「なんて広いの。軍艦どころじゃない。町ひとつ分くらいは余裕である」

「えっ」

「こんなのが地球の上を飛んでたなんて」


 チラリと眼下を見下ろす。

 すでにアカメたちの姿は小さくて判別できない。

 シオリの懸念は仲間との距離だった。

 こんな場所で離ればなれになるのはあまりに心細い。


「見て」


 レッキスの声でようやく終点にたどり着いたのだと知れた。

 鋼鉄の天井が見えた。

 巨大な目玉がすっぽりと収まる窪みがひとつ空いていた。

 音もなくその窪みに嵌まると、マユミとミナミを含めた七つの磔台も天井に固定される。


 ゴゴッ、という音がした。


 すると驚いたことに、目玉の横にも穴が開き始め、さらにもうひとつの目玉が現れた。

 その両の目玉の下方にも、横に長い穴が開く。


「か、顔ぉ?」


 レッキスの声は素っ頓狂に響いた。

 それも理解できる。

 何故なら天井いっぱいに広がったのはまさに顔であったからだ。

 目玉と口があるのだ。

 ひどく生物的で度肝を抜く。

 そいつは何度も目をまばたき、口を右に左に歪曲せしめる。

 いつの間にか鋼鉄の天井を肌に持つ、自然なヒトの顔になっていた。

 ただしスケールは巨人という表現を持ってしても到底足りない。

 それを推し量れるのがマユミとミナミの磔台だ。

 横一列に並んだ磔台は、巨大な顔の額部分に嵌まり込んでいる。

 まるで、茨の冠のように見えた。


「ゴフゥ……」


 嘘みたいに大きな息を吐きだした。

 シオリもレッキスもただ呆然としている。

 ギョロ、と見開いた目が二人、特にシオリを見る。


「フゥ。オ前タチ、ナニユエ邪魔ヲスル」

「し、しゃべった」

「あ、あなた、だれ…………?」


 生理的嫌悪、あるいは精神崩壊を起こさないのは、白姫の祝福が平常心を保たせているからであろう。



「我ハ、オオイナル」

「え……」

「大イナル存在、ザ・グレートワン、デアル」

「大いなる、存在?」

「その名、どこかで」


 シオリにはどこかで聞いた覚えがあった。

 そんな話をしたような。

 アカメ?

 バン?

 それともあれは、魔女の口から……?


「ソコノオマエ」


 顔の両目がシオリに向く。


「オマエ……良質ダ……気ニ入ッタ」

「えっ」


 シオリの表情がヒクついた。

 得も言えぬ不安を押し殺せずにいた。


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