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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第五章 怪神・円環編

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429 救出


 あれ以来、さしたる脅威は現れなかった。


 単発的にナイトゴーントと遭遇はすれど、その都度、先頭を走るレッキスが一気呵成に攻め立てた。

 ミナミ救出の期待がかかる状況にあって、意欲に燃えたぎるレッキスが仕損じることはない。


「近いんよ!」


 床をくりぬいた巨大な水槽を横目に見ながら、レッキスは奥の通路へと走る速度を更にあげる。

 そのスピードについていけるのはシャマンとメインクーンぐらいだった。

 一段と暗い通路を走り抜ける。

 カンカンカンカン、という鉄板を叩く足音が響き渡る。

 すでに隠密行動など捨て去っているという事もあるが、むしろ音の出やすい構造をしているのだろう。

 侵入者を警戒する必要がある施設だという事かもしれない。

 だが今はそんな事、お構い無しだ。

 目の前で光の漏れる出へとレッキスは飛び込んだ。


「うわぁ」


 思わず声が出た。

 そこは広い空間だった。

 足下が光っているのは堕ちた宮殿ゴルゴダ・ラボと変わりない。

 その光も天井までは届かず、重たい闇がわだかまる。

 その闇から生え出たように、幾本もの長いチューブが垂れ下がっていた。

 そのチューブの行く先を目で追うと、広間の中央にたどり着く。


「ミナミッ」


 それはレッキスの待ち望んだ瞬間だった。

 七本並んだ十字架の磔台。

 向かって右から二番目に、ミナミはいた。

 金色のスーツを着せられ、垂れ下がるチューブが身体中に繋がっている。

 ミナミからの反応はない。

 チューブは口にも繋がれており、喉の奥まで達しているのだ。

 くぐもった吐息以外聞こえては来ない。


「でも生きてる!」


 わずかに見えた希望にレッキスは奮い起った。


「あれマユミじゃねえか」

「えっ」


 遅れて並んだシャマンが左から二番目の磔台を指差す。


「んーッ! んーッ」


 こちらはミナミと違い、レッキスの姿を見てから俄然、動かせる胸や腰を振ってもがいていた。

 ミナミと同じ格好だが、着せられたスーツは薄桃色だった。


「あんなに必死にアピールしてんのに、おめぇミナミしか目に入らなかったろ」

「フン! ちゃんとアイツも助けてやるんよ」


 一時期レッキスはマユミに対し敵対心を持っていた事もあったが、それはマユミが仮面の呪いで自我を封じられていた時の名残。

 シャマンはその事を揶揄したのだ。


「おっと! わらわらとお出ましか」

「今さらッ」


 広間中に何処からとなくナイトゴーントどもが集まってきた。

 レッキスとミナミを分断するように壁となって立ちはだかる。


「構うなレッキス。雑魚はオレたちに任せて、おめぇはお姫さまを救いに行け」

「そのつもりッ」


 シュッ、と呼気を発し、レッキスが跳び上がった。

 手前にいた雑魚の肩を駆け上がると、次の雑魚の頭を踏み台に次、その次、とミナミ目掛けてのっぺらぼう(ナイトゴーント)を踏み越えていく。

 越えさせまいと翼を羽ばたかせた数体がレッキスに飛び掛かった。


「させねえってんだよ」


 それをシャマンのガトリング・ダーツが正確に撃墜していく。

 援護射撃を受けながらレッキスは頭の上を跳ねた。

 全身がバネのように身軽な動きでナイトゴーントの攻撃を次々とすり抜けていく。

 レッキスの目にはミナミしか映っていなかった。

 繰り出される攻撃は感覚で避けているとしか言えない。


「ミナミィィッ」


 それでもミナミまでは遠い。

 代わる代わる襲いくる攻撃を必死になって掻い潜る。


「クーン! なんとかなんねえか」

「無理にゃ! 遠距離に集中してる、あんたのカバーで手一杯にゃ」

「クソッ」


 レッキスの援護で周囲にまで気を配れないシャマン。

 そのシャマンの周囲をメインクーンがひとりでカバーしているのだ。

 そもそも盗賊(シーフ)のメインクーンがひとりで捌ききれる数ではない。


「やべぇぞ、レッキスが引き釣り下ろされたッ」


 足首を掴まれ体制を崩すレッキスの姿が見えた。


「鳥じゃ! 掴めレッキス! 四の表護符・対空戦者・(きわみ)

「クルペオ!」


 ドゴッ!


 鈍い音に振り向くと、シャマンの背中を庇ったウィペットが、攻撃を盾で食い止めていた。


「油断するなよシャマン」

「遅えんだよ盾役ッ」


 ゴアッ、と風を切って、符術で作られた、いつもよりも巨大な白い鳥がクルペオからレッキスへと向かい飛び立った。

 頭上を加速する鳥の足を掴んだレッキスが、雑魚どもを蹴散らしながら浮上する。

 なおもしがみつこうとする雑魚を残らず蹴落としていく。


「ミナミィーッ」


 もはや止めるものはいない。

 ミナミの真上にたどり着くと、レッキスは手を離しまっすぐミナミへと飛び降りた。

 ようやく顔を上げたミナミが目にしたのは、視界いっぱいに広がる飛び付いたレッキスの胸だった。


「ミナミィ、助けにきたんよ! 遅くなってゴメンよぉ」

「…………レッ……キス」


 磔台にしがみつきながら、掻き抱くようにミナミの頭を抱きしめる。

 存在を確認するように頭を撫で、頬擦りをし、匂いを嗅ぐ。


「ミナミ! ミナミッ! ミナミの匂いがするんよ」

「レェッキス! まだ安心すんじゃねぇ」

「フッ」


 シャマンの怒号を聞くまでもなく、飛びかかってきたナイトゴーントをレッキスは回し蹴りで撃退した。

 ミナミを縛る磔台にのし上がり、次々と迫る敵を払いのける。

 レッキスを知るメンバーでもついぞ見ない、切れに切れまくった見事な動きの連続だった。


「負けるかッてんの! フルメンバーがそろったウチらのパーティー舐めんじゃないよ」


 その途端、ガガガガという衝撃が起きた。

 ミナミとマユミを拘束したまま磔台がせり上がりだしたのだ。

 同時に天井の闇から太いチューブが触腕のようにレッキスやシャマンたちを襲いだした。


「あそこじゃ! 巨大な目がある」


 クルペオが頭上に大きな目玉が浮かんでいるのを見つけた。

 その目玉から幾つも伸びたチューブこそが、ミナミやマユミへと繋がっていたものの正体だった。


「こいつがここのボス!」


 ヒィィィィン、とレッキスの背中から震動が発せられた。

 ミナミの神器、土飢王貴(ライドウ)が強く振動し始めたのだ。


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