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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第五章 怪神・円環編

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427 狭くて愚かしい世界から


「宇宙……これが…………」


 シオリの解答に得心がいったのは、おそらくアカメだけのようだった。

 そのアカメにしろ、惑星や天体に関する知識は本に書かれた文章表現とイメージを助ける挿画で得ているだけであり、抱いていたイメージとその光景の差異に今なお戸惑っていた。

 もっとも、シオリにしても実際に宇宙に来たことなどない。

 写真や映像で見たことがあるだけで、他の連中に胸を張れるようなものでもないのだが。


「なるほど。あれが私たちの住む大地、ですか」


 視界の下半分を占める、青い領域を眺めるアカメの声にも、感動と畏怖が入り混じっていた。


「てことはだ」


 シャマンが納得いった風で声を張り上げる。


「この窓ぶち破ってあそこまで行けば、オレたちゃあ、ちゃんと戻れるってわけだな」

「言うと思った……」

「な、なんだよシオリ? 違うのか?」


 シオリが嘆息した事に、シャマンは理解ができなかった。


「しかし、ここが宇宙とは、困りましたね。帰り道は特定の場所に固定されていると考えるべきですね」


 シャマンの狼狽を無視してアカメはシオリに告げる。


「来たときみたいなところに?」

「ええ。これはちょっと…………」


 そこでアカメは次の言葉を飲んだ。


 ――この戦力で来るべきではなかった、と。


「とにかく、場所の雰囲気はわかった。奥へ進むぞ。進むしかねえだろ?」


 シオリが頷いてくれたので、シャマンの言葉に従い、七人は再び広い通路に戻り、要塞の奥へと探索を再開した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「思い出の地図(メモリーマッパー)


 今オーヤの使った術技(マギ)は、一度行き来したことのあるダンジョンの構造を、右目の視界内に平面図として映し出すものだ。

 空間を操る術に長けたオーヤにとって、とるに足らないものだった。


「半分ぐらい未踏破ね」


 しかしこの術技(マギ)で視えるのは、あくまで一度通った道だけである。

 この浮遊要塞ゴルゴダ内部を、魔女は半分も探索し終えていることになる。


「探し物は、やはり未開のエリアでしょうね」


 鋼鉄に覆われた要塞内を歩くオーヤが足を止めた。

 体全部から危険を知らせるシグナルが発せられたようだった。

 その原因はすぐにわかった。


「何を探しているというのだ」


 低く押さえた、だが相手を畏怖させるに十分な声だった。

 正体はわかっている。

 確認するまでもない。

 予想の通り。

 声のした方を見ると、暗がりから威圧的な気配を漂わせた威丈夫が姿を現していた。


「ズァ……」


 はぁ、と魔女が大きく息をつきながらうなだれる。


「出てくるのが早すぎるでしょう」


 顔を上げると、少々うんざりした声音で応じた。


「大広間ででもデン、と待ち構えていられないわけ?」


 だがズァの表情は硬い。

 魔女の茶番に付き合うつもりはなさそうだった。


「好き勝手に這い回るネズミが、中枢へ辿り着くのをただ待つつもりはない。ここは世界にとって神聖不可侵な場所だ」

()()()()には適さないわよ。その考え方」

「貴様ら姫神の使う表現はいつも解さぬ」

「フン。勝手に連れてくるんなら、ちゃんと日本の文化についても下調べしときなさいよ」

「つまるところ、復讐か」

「なによ、急に」

「貴様から怒気を感じる。自分の運命を呪うより、他者に対する恨みで生きているようだ」

「あなた……」


 オーヤが心底あきれたという表情になる。


「なぁんにもわかってないのね」

「…………」

「それでよく三柱神が務まるわ。所詮<力の化身>は破壊するしか能がない。<心>や<智慧>には及ばないのね」

「……」


 臆すことなくオーヤは続ける。


「私はね、感謝しているのよ。身勝手な神々(あなたたち)に」


 フフ、と笑うオーヤ。

 その目は十代の少女が将来の夢を語る時の、挫折など知らず、苦悩など知りようもない、キラキラとした理想の世界を信じてやまない、無垢な雰囲気で彩られていた。


「私ね、実は結構な上場企業に勤めていたのよ。二年目だったけど、同期の誰よりも優れていたわ。友達も多かったし、もちろん男だって好きなだけ選べたんだから。……あのままの生活が続いていたら、絶対に誰だって羨むような人生を過ごしていた…………けどね」


 冷めた目でため息をつく。


「同時に、世界の狭さと愚かさにも辟易していた」


 ギュッと拳を強く握りしめる。


「上司も同期も取引先も、政治家もマスコミもそこらを歩いてる知らない連中も全部。救いようのない奴ばっかりって思ってた。いくら殴っても殴り足りない気持ちの毎日よ。わかる?」

「……」


 不意に右手を振るい、離れた位置に爆発を生じさせる。

 赤く煌めいたズァの顔に表情はなかった。


「つまらなかったわ。絶望してたのかもしれない。このオタクが泣いて喜びそうな、非常識な世界に連れてこられるまではね」

「…………」

「あなたからすれば姫神なんて、この世界を維持するだけの生け贄に過ぎないんでしょ。でも私はね、管理者(あなた)から逃れてこの世界で四百年以上を生き延びた。優秀だと思わない?」

「稀有ではあるが、お前だけが例外ではない。過去、逃げおおせた姫神もいる」

「そう」


 不敵な笑みを取り戻したオーヤの姿勢が少し変わる。


「じゃあ、あなたに取って代わろうとする姫神は、私以外に何人いたのかしら、ねッ」


 ゴォッン、という轟音と衝撃と重圧が、一帯を支配した。


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