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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第五章 怪神・円環編

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421 魔女対亜人たち


「もうそろそろいいんじゃない?」


 いやに天井の高い広間で立ち止まった、全身黒い革衣装の女が背後に向かい声をかけた。

 振り向くと長い金髪が遅れじと弧を描き、魔女の目許を覆い隠す。

 口許は笑んでいたが、目はどうだったろうか。


「私のこと、尾行しているのはわかってるのよ。出てらっしゃい」


 オーヤの目は笑っていなかった。


「おい、あの女の力、どう見た?」


 物陰に身を潜めつつ、シャマンが小声で仲間に問う。


「恐ろしい魔女だ。得体の知れない術技(マギ)を幾つも持っている」

「それに冷酷にゃ。仲間の傭兵、ひとり残らず犠牲にして、自分だけ無傷でここまで着いたにゃ」

「まっこと、正面切って戦いたくはない相手じゃな」


 ウィペット、メインクーン、クルペオの感想と、おおむねシャマンは一致した。


「でも向こうはそう思ってないんよ」


 レッキスの声音に緊張感がこもる。

 広間の中央に立つオーヤから、明らかに身を隠すこちらへ向けて殺気が放たれた。


「出てこれない臆病者に用はないわ。黙って逝くといい」


 ギンッ! と空気が逆立つのがわかった。

 まるで冷たい刃でなます切りにされた気分だった。

 オーヤの両手に魔力が束ねられるのが、魔術の素養のない一行にも見てとれた。


「クソッ! 是非もねぇな」

「待っ……シャマン、出ていくつもり?」

「ギワラから直接の交戦は避けるようにと言われておるが」

「出てかねえと戦うしか選択肢がなくなるだろ!」

「今ならまだ、交渉の余地ありということだな」

「そう言うことだウィペット。交戦よりかはマシだろ。おい、クーン」

「なんにゃ」

「いつものやつ言いな」

「うぅ、リーダーの決めたことには常に従う」

「そうだ。それがオレたちの、唯一のルールだよな」


 シャマンが額に冷や汗をかきながらも笑って見せた。


「フフ、やっと姿を見せる気になってくれたのね」


 シャマン一行が姿を見せたことで、ようやくオーヤの目許にも笑みが浮かんだ。


「美人のお誘いは断れねえからな」

「あら! 猿に人間の美醜がわかるわけ?」

「オレのような猿人族(ショウジョウ)は、もっとも人間に近い亜人なんだよ」

「そう思ってるだけでしょう?」

「なにぉ……ッ」

「挑発に乗るなシャマン」


 一歩踏み出しかけたシャマンの肩をグイッとウィペットが押さえる。


「ぐっ、すまんウィペット」

「フフ。それで? どうして尾けたりしたわけ? 私のお尻が魅力的なのは理解してるけどもね」

「んなわけねぇだろッ」

「この女、やりづらいんよ」


 ボソッとレッキスが呟く。


「ったく、テメーの目的はなんだ? この遺跡に何しに来やがった」

「ふぅん」


 オーヤの目が細まる。

 あきらかにシャマンたちを値踏みする目になる。


「なんだ? 黙るなよ」

「いや……一介の冒険者が最初に聞くべき質問ではないわね」

「なっ……」

「あなたたち、誰の命令で私を監視してたのかしら」


 全員が身を固くした。


「いかん。奴め、相当キレるぞ」

「あれほどの術技(マギ)の使い手じゃ。馬鹿ではありえんだろう」

「シャマンじゃ太刀打ちできる気がしないんよ」

「ウ、ウルセー。オレたちは誰の命令も受けてなんか……」


 ボンッ!


 シャマンたちの足元が突然()ぜた。

 オーヤの術技(マギ)による威嚇だ。

 石を敷き詰めた床にぼっかりと穴が空き、縁がわずかに煤けている。


「誰の命令かなんてどうでもいいの。私の目的には大した障害とはならないもの」


 オーヤの右手に風が集まりだす。


「今私に必要なのは強者。あなたたちの腕、確かめさせてもらうわ」

「来るぞッ」


 シュバァッ、と空気を切り裂く音がした。

 確かに聞いた。

 パーティーの役割が徹底されていた賜物だろう。

 突然の音速による攻撃であっても、金属鎧に身を固めたウィペットが咄嗟に前面に出て盾となった。

 方形盾(ヒーターシールド)に重い衝撃がのし掛かる。

 右に反らした感覚はあったが、肩当ての先端が綺麗に切断されていた。

 鋼鉄を裂いた断面が鈍く光る。


「なんという風の刃。重く、速く、不可視。次は捌ける保障はないぞ」

「反撃だッ」


 シャマンの剛力駆動腕甲(パワード・アーム)から秒間十二発のガトリング・ダーツが発射される。

 ラットケイブで知り合ったドワーフの鍛冶師に再調整してもらったもので、弾もギワラからたんまりと頂いている。

 響き渡る轟音を合図にレッキスとクルペオが攻撃に移った。


 しかしガンガンガンガンガンッ、とシャマンのダーツはオーヤの足元から浮かび上がった石の瓦礫に弾かれまくる。


「マジかよッ! なんだあの石」

「単に石を浮かせているのではない。付与魔術(エンチャント)して防御を固めているんだ」

「ならばこれはどうじゃ! 〈六の表護符・月下氷陣〉」


 オーヤの両サイドに飛来した二枚の符から氷雪の嵐が巻き起こる。


「悪いけど私、寒いの嫌いじゃないのよね」


 オーヤの長い金髪がひとりでに動くと、巨大な二本の拳のように束なり、左右の符を握り潰してしまった。


「こなくそッ」


 冷気で動きが鈍る計算が狂い、レッキスの渾身の蹴りも髪の拳に防がれてしまった。


「猿に犬、狐に兎。あなたたち面白いわ。いい四人組ね」

「もうひとりいるにゃ!」

「ッ」


 ブシャアッ!


 オーヤの首から鮮血がほとばしった。

 今まで身を隠していたメインクーンが、背後から忍び寄りオーヤの首を掻き切ったのだ。


「よしゃァ! よくやったクーン」


 自らの真っ赤な血の海にオーヤは膝からくず折れた。

 金髪も赤く染まる。


「けどシャマン、殺しちゃったら何も聞き出せないんよ」

「殺らなきゃこっちに死人が出てたさ」

「アカメにはどう伝える?」

「う~ん、ありのまま言うしかねえさなぁ」

「…………そう。あの赤い目をしたカエルさんなのね」


 五人ともひっくり返りそうになった。

 まさかと思いつつも、目の前で首筋を手で押さえながら、ゆっくりと魔女が立ち上がったからだ。


「バカな! なんで死なねえんだ?」

「死ななくてもね、痛いのよ、結構」


 理解が追いつく暇がない。


「くっ、死人(アンデッド)……だったのか」

「フフフ、お返しにちょっと、怖い目に遭ってもらおうかしら」


 オーヤの髪がまた蠢きだした。

 それはいつの間にかのたうつ無数の蛇だった。


「私の正体、教えてあげる」


 オーヤの金色の目が怪しく光る。


「いかん! まさかッ、みんな奴の顔を見るな」

「もう遅いわ」


 五人の足先が固くなる。

 いや、足だけではない。

 固くなるのは膝、股、胸と急速に侵攻していく。


「クソッ、嘘だろ?」

「身体が、石になるにゃ」

「メデューサだ! コイツの正体は見た者を石に変える伝説の怪物!」


 打つ手がない。

 全員すでに首から下は石化していた。

 そのスピードは刹那の如くである。


「あなたたち、強かったわよ。でも残念ね」

「うおおおおお」


 直後、そこに五つの石像が並んだ。

 どの石像も苦悶の顔を浮かべている。


「さて……」


 オーヤはジッと、その場で待った。


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