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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第五章 怪神・円環編

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412/722

412 夜空のローブ

挿絵(By みてみん)


「なあ、おやっさん。あの王様さあ、最初、こんにちは、って言ったよな?」

「ん? ああ、そうだったかな」

「今は新月の晩なんだろ? なんでこんばんは、じゃないのさ」

「知るか」


 アマンは銀河ホタルの織り成すイルミネーションは、新月の晩にのみ見られる、と言ったマグ王の最初の挨拶が「こんにちは」だったのが気に入らないらしい。


「外が一切見えないんじゃ。どっちでもええわい」


 チチカカはそう言ってため息をついた。

 物事の道理に対し柔軟な態度で臨める若さがあるアマンやレイとは違い、今現在自分の置かれたこの非日常に思考を合わせるだけで手一杯なのだ。

 これ以上の無駄な疑問を増やされてはたまらないというのが本心だった。


「失礼。お待たせしてしまった」


 そこへ件のマグ王がアマンとチチカカの待つ部屋へと現れた。

 二人は既に用意された長テーブルの席に着き、しばらく主賓と別室に案内されたレイの事を待っていた。

 目の前には幾つもの食器が並べられている。

 食事でももてなしてくれるようだ。

 この部屋内は軽くであるがアマンが(あらた)めている。

 罠などの危険な兆候はひとまずみつからなかった。

 少なくともバステトというレアな種族は敵対的ではないようだ。今はまだ。

 しかしアマンにはひとつ気になることがあった。

 それを一刻も早く確認しておきたい。


「マグ王。確認しておきたいことがあるんだけどな」


 アマンのぞんざいな言葉使いに、マグ王の背後に控える衛兵らしき者が眉をしかめる。

 上半身は輝く精霊銀の鎧をまとっているが、隠すことのない頭部はまた猫のそれであった。

 この部屋に案内されるまでに何人かの兵や召使いといった面々とすれ違ったが、誰もかれも同じように猫の頭をしていた。

 怪描族(バステト)以外はいないのであろうか。


「ええ、なんなりと」


 マグ王は気にした風もなくアマンに頷いて見せながら上座へと着いた。


「オレたちと一緒にいたウシツノの旦那がいない。なぜだ?」


 この疑問がクリアにならない限り、アマンはバステトたちを信用できないと思っていた。


「ウシツノ? あぁ、オンラクから報告を受けています。カエル族ともうひとり、あなた方と一緒にいたとか」

「そうだ」


 ウシツノとバンである。


「事に依れば彼等は敵です。故にここには招待しませんでした」


 涼しげに答えるマグ王だが、アマンは聞き捨てならなかった。


「旦那が敵だっていうのかよ?」

「利害関係は調整できましょうが、彼はすでに白姫の駒です。しかも旧白姫の残りカスまで連れていた」

「残りカスって……」


 それまでの優雅で丁寧な雰囲気とは少しかけ離れた表現に、黙って聞いていたチチカカも思わず面喰らった。


「なんだか、あの白いタヌキに関しては辛辣だな」

「失礼。あの者だけは少々許し難くありましてね」

「何が……」


 アマンが真意を問い質そうとした時、オンラクに伴われたレイが遅れてこの席へと現れた。


「あ」

「おお」

「うむ。素敵ですよ黒姫」


 アマンもチチカカも驚きで言葉を失い、マグ王は称賛の声を惜しまなかった。

 入室したレイは漆黒のローブを身に纏っていた。

 夜会のためのドレスではない。

 姫神として、黒姫としてふさわしかろう、威厳すら感じさせる見事な佇まいだった。

 随所にアマンには読めない文様が刺繍され、動きを阻害しないよう、スマートなフォルムに長めのスリットなどの構造をしている。

 身動ぎの度にそこかしこが艶やかに光り、衣擦れはまるで星々の流れる音を奏でているようだ。

 このまま玉座にでも座れば夜の国の女王として振舞っても違和感はない。


「あ、あの」


 皆に凝視されレイは戸惑いを隠せずにいた。


「お似合いです黒姫。それは夜空のローブという貴重な魔法着ですが、あなたにこそ相応しい」


 レイはオンラクが引いた椅子に着席する。

 右手にマグ王、正面にアマンとチチカカという構図だ。


「では皆さん、お疲れでしょう。食事でも楽しみながら、しばしご歓談といきましょう」


 マグ王の合図で早速、空の食器に次々と豪勢な料理が運び込まれる。

 次々と食卓に並べられる料理を見ているうちにアマンもチチカカも急激な空腹を覚えた。


「どうぞ、お召し上がりください」


 マグ王の言葉にアマンは目の前の炙り肉に食いついた。

 口の中に温かい肉の柔らかさと肉汁が、香辛料(スパイス)の香りと一緒になって広がっていく。


「その肉は金毛羊です。黄金の毛皮を持つ羊の肉ですが、南で採れる希少な影胡椒(かげこしょう)を合わせると芳醇な香りが増すのですよ」

「おい、アマン。こっちのチキンも旨いぞ」

「んあ? ほんとだ、ウメーェ」

「それはロック鳥のヒナです。ジャンヌ・ガーリックで味付けしてあります」


 次々と珍しい料理に舌鼓を打つ二匹のカエル族とは対照的に、レイはあまり食が進んでいないようであった。


「お口に合いませんか?」

「あ、いえ。違うんです。ごめんなさい」

「いえ。どうやら黒姫は不安でおいでなのでしょう。どうです。こちらのスープでも。身体だけでなく心も温まりますよ」


 レイの前に湯気を立てるスープの皿が置かれた。

 一口すするとなんだか体内から落ち着きが取り戻されていく感覚があった。

 薬膳スープの類だろうか。

 マグ王がまた解説を始めるのかと思ったが、彼の次の言葉は時計の針を進めるものだった。


「黒姫。それでは我らとあなたの今後について、そろそろ話し始めるとしましょうか」

「今後?」

「ええ。でもその前に。どうやらあなたには少し、この世界について教えて差し上げねばならぬことがあるようです」


 確かにレイはこれまでただ翻弄されてきたばかりで何ひとつ理解の範疇になかった。


「さて、どこから話し始めたものか」


2025年9月21日 挿絵を挿入しました

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