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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第一章 姫神・放浪編

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041 インバブラとレイ


「はあ、はあ、こっちですッ」


 アカメはシオリとレイを引き連れてひた走っていた。

 とにかく戦場から離れることを考えていたが、目的地については思い悩んでいた。

 ついさっきまでウシツノと揉めていた目的地。

 その考えがまとまらない。

 このまま水仙郷へ向かうにしても、アカメひとりでシオリとレイを保護しつつ、辿り着くのは難しい。

 さりとて魔女に会いにカザロの村へ、この状態で行っても鳥籠に自ら突っ込むのと変わりない。

 どこかでウシツノと合流すべきだが、その打ち合わせなどしている暇はなかった。

 いや、下手をすると敵である二人の騎士が追いかけてくる可能性もある。


「まずはどこかに身を隠しましょう」


 走りながらアカメはシオリにそう提案した。

 その際に普段使う西方語を話してしまったがシオリにはちゃんと通じているはずだ。

 特にそのことを気にしなかったアカメだが、後に後悔することになる。


 レイへの配慮を怠ってしまったことを。


 息も絶え絶えに、泥だらけになりながらレイは不安に駆られていた。

 今、なぜ、こうも必死に走らねばならないのか。

 ようやく自分を守ってくれると言ったヒトたちに巡り合えた。

 そのヒトたちと共に水の精が住む美しい郷へ落ち延びるのだと思っていた。

 しかし不気味に蠢く植物に襲われ、助かったかと思えば今度は再び、あのトカゲたちの元へ行こうと説得された。

 トカゲ族の元へ。

 それだけは絶対に嫌だった。

 答えがはっきりしないまま、続けざまに二人の鳥の騎士に襲われた。

 しかもどうやらこの鳥たちも私とシオリさんを狙っているらしい。


 そのシオリもシオリだ。

 知らぬうちに異世界の言葉を自在に操っている。

 聞いたこともない言葉を使いこなし、カエルたちと親し気に語り合っている。

 私だけわからない。

 私だけが何もわからずにいる。


 今だってアカメはシオリにだけ労わりの声を掛けていた。

 アカメが何を言ったのかはわからない。

 そこで嫌な考えがよぎった。

 二人はあの魔女に会いに行こうと言っていた。

 反対したウシツノは今ここに居ない。

 今は一体どこへ向かっているの?

 まさか、あの魔女の元?

 私は絶対に嫌。

 嫌だって言った。

 苦しい。

 もう走れない。


「はあはあ、アカメさん。隠れるってどこに?」

「わかりません! どこかいい所は、ないかと探しながら、走っています! ぜぇ、ぜぇ……」

「そんなぁ」


 頼りはアカメだけなのだ。

 困惑しているところはなるべく見たくない。

 特に不安がっているレイにはなおさらだとシオリは思った。


「すいません! はぁはぁ……シオリさん?」


 振り向かずにアカメは声を上げた。


「なんですか?」

「姫神の力、ぜぇぜぇ、自在に使えるのですか?」

「わかんないですよぉ、はぁはぁ、そんなのぉ……どうやって変身したのかも」

「そう上手くはいきませんよね……ぜぇぜぇぜぇぜぇッ」


 会話しながらも走り続けた二人だったが、シオリがふと振り向くと後ろをついて来ていたはずのレイの姿が無くなっていた。


「えっ、あれ? レイさん! アカメさん、レイさんがいないッ」

「なんですってッ」


 二人して周囲を見渡すが、レイの姿どころか息づかいすら聞こえてこない。


「はぐれたの?」

「なんてことでしょう! ウシツノ殿に顔向けできません」

「探さないと! レイさぁッ……ンンッ」


 大声で呼びかけようとしたシオリをアカメが慌てて制止する。


「シッ! あまり大声は出さない方がよろしいかと」

「でも……」

「とにかく来た道を戻りましょう。もしかしたらどこかで、ケガをしているのかもしれません」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 レイの方でも目の前を走っていたはずのシオリが忽然と消えてしまったことに狼狽していた。

 不安に駆られ、走りすぎて息も上がり、周囲がわからなくなるほどに意識が酩酊したことはわかっている。

 気付いた時にはシオリたちとはぐれてしまっていた。

 どんな怪物が潜んでいるかも知れない、暗い異世界の森の中で、レイはもう自分を保つことも困難だった。


「どうしよう……」


 ここにジッとしているべきだろうか。

 登山などで遭難した場合、普通ならどうするのだろうか。

 でも今は逃走中であることを思い出す。

 ジッとしてても迎えに来るのは敵かもしれない。

 とにかく前へと歩くことにした。



 ガッ!



 一歩目で、足元を這う大木の根につまずいて転んでしまった。

 泥と水が飛沫を上げてレイの顔や髪を汚す。

 呆然としたまま、レイはなかなか起き上がらなかった。

 しばらくして、ようやくゆっくりと起き上がる。

 目には怒りと悲しみが混じった涙が滲んでいた。


「もう……やだ……こんなの……」


 悔しくて、悲しくて、怖くて、おぞましくて。

 滲んだ視界は何も見えず、ただ夜の暗闇が恐怖をはらんでレイの心を覆うばかり。


「もう、やだぁ」


 腰から力が抜け、レイはへたり込んだ。

 闇の絶望に押し潰されそうな自分を知り、なにか、その先が見えそうな気もしてきた。

 自然にレイの口から言葉が流れ出る。


「転……身……ひめがみ」


 一瞬、強い力が胸の内で弾ける感覚があった。

 得体の知れない爆発力が自分を高みへと引き上げてくれそうな。


「…………」


 だが、それも一瞬で、結局は何も起こりはしなかった。

 レイも変わらず、その場でうずくまっているばかりだ。


「どうしたらいいの? 私……だれか……」


「お、こんな所にいたのか? 平気か?」


 その時レイに差しのべられた手があった。

 レイが顔を上げるとそこに一匹のカエル族の者がいた。


「あ、あなたは……」


 それはインバブラであった。


「こんな所にひとりでいちゃあ危ねえだろ。ついてきな」


 強引にレイの腕をとり立ち上がらせると、インバブラはズンズンと森の中を歩き出した。


「あ、あの……」

「とりあえずここから逃げるんだ」


 レイとインバブラはお互いの言葉を理解できていなかった。

 だがインバブラはレイが怯えないように、弱々しくも笑顔をつくり安心させようとしてくれた。

 少なくともトカゲ族や鳥の騎士たちのような明確な敵ではない。

 それに暗い森にひとりでいることほど心細いこともない。

 今は知っている者が隣にいてくれるだけでありがたかった。

 レイはおとなしく、インバブラについていくことにした。


 インバブラの口元が、嫌な笑みでひきつっている事に気付きもしなかった。


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