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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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392 エピローグその6 共和政


「それでは皆さま、以上の決定でよろしいですわね」


 会議場となった白い円卓を囲み、居並ぶ面々を前に代表してミゾレがそう締め括った。

 まだまだ細かい決め事を詰めていかねばならないが、ハイランドの今後について、大まかな道筋が示された会議だった。


「レーム様」

「なにかね?」


 いち早く立ち去りかけたレームに声をかけた。


「これが最後でございます。お心変わりはございませんのね?」


 何度目かのミゾレの同じ問いに、この国の第二皇子レームは何度目かの同じ回答を返した。


「吾輩の決心は変わらぬよ」

「わかりました」


 静かにミオレは頭を垂れると議場にいる小役人エッセルを呼びつけ指示を出した。


「この決定を速やかに国民に向けて発布してください」


 なぜ私が、と言いたげな表情を一瞬見せたエッセルだったが、事務処理能力を買われ命拾いしたのでなにも言わずそそくさと退室した。


 こうして会議は終わったのだが、終始居心地の悪さを感じていたのが何を隠そうシオリであった。

 終始椅子の上で固まったまま、事の成り行きについていくのがやっとであった。

 なぜ自分がここへ呼ばれたのかも理解できぬまま、あれよあれよと会議は終わり、そして今になって事の重大さに眩暈を起こしかけていた。


 自分が自分じゃなくなっていくような不安を覚えた。


「ミ、ミゾレさん。やっぱり私なんかに」

「大丈夫! むしろシオリさんがいてくれてこそ成り立つことなの」

「でも……」

「出来る限りのサポートはするし、不安なんて感じさせないよう努めるから」

「うう」


 そうまで言われて返す言葉が出てこなかった。


「まあまあ、シオリさんは今まで通りにしていればよろしいのです。大丈夫ですよ」


 アカメもそう言ってとりなした。

 実際シオリにとってこの処遇は最良だとアカメは思っている。


「さあ、これからは忙しくてよ」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 翌日、ハイランド中に発せられた内容は、人々の驚きと歓迎の声で迎え入れられた。


『今日より、ハイランド王国は共和政となり、ハイランド共和国とす』


 千年続いたウォーレンス家の王権は返納され、選ばれた十人の執政官による合議政で政治を行うことが決まった。

 数年おきに執政官は審議にかけられ、不適格と判断された場合、その穴を埋める選挙を執り行うことも同時に決まった。

 この十人には原則上下関係はないことも付記されている。


 初年度の執政官も発表された。

 旧ウォーレンス王家からレーム・ウォーレンスとクネート・ウォーレンス。

 城塞都市ネアンの現領主ミゾレ・カナン。

 侯爵位に復帰したドクターダンテことジルゴ・アダイ卿。

 ケンタウロス族の若き族長となったベルジャン。

 そして領地が比較的軽微な被害で済んだ北の諸侯から数名が選ばれた。


 そして最も国民の関心を呼んだのが最後のひとりとして発表された者だった。


「大丈夫。シオリさんなら誰もが納得しましてよ」

「う、うん」


 新沼シオリ。

 異世界から現れた、今や救国の聖女。


 人々は誰もが知っていた。

 この国の厄災を退け、人々を呪いから解放してくれたのがこの少女であることを。


 白い光を操り、この世界を癒そうとする姫神と呼ばれる天使だと。


 ひとりの少女の存在が壊れかけたハイランドを今一度立ち直らせようとしていた。


 誰よりも強い少女だが、か細く見えるその両肩を見つめながらもアカメはこれでいいと考える。


 確かにシオリには荷が重すぎるかもしれない。

 けれどシオリはこの国が前を向くためにどうしても必要な象徴であった。


 酷と思うかもしれない。

 しかしアカメはここがシオリにとって安住の地になると考えていた。

 少なくとも、目まぐるしかったこの数ヶ月を整理するのには適していると思っている。


 発表を受けて国民の多くが城前の広場に集まってきていた。

 テラスからそれを眺めるシオリにミゾレとハクニーが寄り添っていくれている。


 アカメはその姿を確認してから次の仕事に取り掛かった。



 それ以後、この国の新たな指針が続々と設けられた。


 まずはエスメラルダとの友好関係の成立だ。

 今日まで滞在していたサトゥエ女王と正式に調停を結ぶ運びとなった。

 エスメラルダでも数ヶ月以内に新法王へと禅譲されることを伝えられた。

 その本人、ハナイ司教とユニコーン貸与の約束を取り付けることもできた。

 地底湖の浄化はキボシ様の見守りを受けながら、ウンディーネとユニコーン、そしてシオリによって時間をかけて行われることだろう。


 街の復興作業も開始された。

 実はシオリが自らの術技(マギ)を披露し直そうと進み出たのだが、アカメはそれを退けた。

 シオリの負担が大きいという判断もあったのだが、何より今回の災害で生活基盤を失った者たちへの職の斡旋という面も抱えていたのだ。

 公共事業として行われることで多くの難民を雇い入れることが出来る。

 自分たちの手で復興するという事の大事さを気にしてのことだった。


 もちろん国庫にも限界はある。

 ハイランドの復興を促進するためのアイデアはいくつあっても足りない状況だったのだが。

 この点に関してミゾレがひとつ面白いアイデアを持っていた。

 それは先日シャマンたちに依頼していた墜ちた宮殿の探索についても関わりがあることだった。


 彼らは興味深い話を引っ提げて戻ってきてくれていた。

 その件についてこれからアカメはレームとダンテ……もとい、ジルゴ・アダイ卿と協議するつもりであったのだが、ミゾレが急遽もうひとり追加で招集していた。


「ああ、よかった。来てくれたのですね、ギワラさん」


 ギワラは自分が何故王城へ呼び出されたのか、この時はまだ何も想像がつかないでいた。


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