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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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389 エピローグその3 地底湖


「やはりこの湖を浄化するまでは、真の解決は望めませんね」


 聖都カレドニアの地下に広がる広大な地底湖を前に、ひっそりとシオリとアカメがたたずんでいた。


「シオリさんの力で治せるものでしょうか?」

「……」


 アカメの問いはシオリにもわからなかった。

 コップ一杯の水を綺麗にすることなら出来ると思う。

 バケツ一杯でも大丈夫だと思う。


「でもこんなにいっぱいの水を……」

「ですよねえ。街に流れた水もあるし、岩に染み込んだ水もある。範囲を想定することすら困難ですよねえ」


 黙り込んだ二人を見て、そばにいた巨体の持ち主が笑いかけた。


「ファファファ。そりゃさすがの白姫でも無理じゃろうて」

「キボシさま」


 それは巨大な老ガメの賢人キボシであった。

 西の辺境大陸よりウンディーネを連れてきてから、この地底湖を調べてくれていたのだ。


「でもキボシさま。ここの水を汚染されたままにはできません」

「それはそうじゃろう。だからこそお主らは実にツイとった」

「え?」

「ユニコーンじゃよ。かの精霊馬は泉の毒すら浄化できる回復能力の持ち主じゃよ。この水は浄化できる」


 事態を聞いて銀姫ナナと四人の処女騎士がそれぞれのユニコーンを連れて地底湖までやって来た。

 しかしさすがに広大な地底湖を前に四人も怯んだ。


「いや、確かにユニコーンには浄化の力がありますが」

「泉の毒すら無効化できると聞きましたが?」

「この量はさすがに……」


 規格外だと言われた。


「それに」


 騎士のひとりが言いにくそうにアカメに目線を投じる。


「わ、私たちは他国の騎士です。それもハイランドとエスメラルダはいつまた戦争に発展するかも……」


 翡翠の星騎士団三番隊のメアだ。

 両サイドに垂らした短めの三つ編みを弄りながら、その騎士は申し訳なさそうにそう呟いた。


「ナナさまァ」


 そこへナナの一番の側近であるスガーラが息せき切って走り込んできた。


「どうしたスガーラ? なにを慌てている」

「女王陛下が」

「え」

「サトゥエ女王陛下がこの城へ起こしに!」

「なんだって!」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 王城ノーサンブリアの謁見の間は崩壊したため、急ごしらえの広間が今は使われている。

 そこは元々城の入り口に近い大ホールで、普段は閲兵式など物々しいイベントに活用されていた。

 そこに臨時の玉座は置かれているが座るべき者がいない。

 現王トーンは亡くなり、次兄レームが適当かと思われたが、王の重責を担う事を未だに固辞している。

 そのため現れたエスメラルダ女王に対し、ハイランド側はレームとミゾレが並んで対峙するという異様な様相を呈していた。


「このような時ゆえ我らハイランドの醜態を晒す無礼をお許しいただきたい」


 一応レームがもっともらしく振る舞ってみせる。


「そのような気遣いは無用に願います。事態は概ね理解しております」


 決して相手を(おもんばか)るだけのことではない。

 サトゥエにはサトゥエの事情があった。


「此度の動乱の原因は我らエスメラルダにもあります。大司教ライシカの暴挙を見過ごすばかりか双方に多大な被害を出させてしまいました」


 そうしてゆっくりと頭を下げた。


「慈愛の女神サキュラ神の名に誓って、我がエスメラルダは貴国の復興を出来うる限り助力いたしましょう」

「お、お顔をお上げくだされ」


 レームが慌ててサトゥエのそばへと駆け寄り顔を上げさせた。

 隣にたたずみハッとする。

 顔を上げた際の女王に対し、不覚にも何か胸の奥に熱いものがこみ上げたのを自覚した。

 ジッと動かないレームにいぶかりながらも、ミゾレは急遽持ち上がった話を振ることにした。


「女王陛下。実は早速なのですがお願いしたき儀がございます」

「わかっております。ユニコーンですね」


 すでにナナより一連の報告は受けていた。


「もちろん助力は惜しみません。ですがユニコーンをもってしても地底湖全体の浄化とまでは……」

「その事については私から補足説明をさせてください」


 そこでアカメが前へと進み出た。

 すぐ背後にシオリもいる。


「ユニコーンの浄化能力は有名です。泉にその身を浸からせれば、どんな汚染された水も浄化されると」

「ええ」

「ですが地底湖は広大です。ユニコーンのみではその浄化も行き届かないでしょう。そこでシオリさんとウンディーネの方々にご協力いただきます」

「その方が白姫ね」


 サトゥエの視線にシオリはわずかながらの緊張を覚える。

 異世界の女王陛下に見つめられているのだ。

 正直実感もわかない。


「ウンディーネは水の精霊です。水の流れを操作して満遍なく浄化できるよう頑張っていただきます」

「なるほど。それで白姫は?」

「シオリさんはユニコーンの浄化能力の底上げをしていただきます」


 シオリは回復以外にも能力の向上を促す術技(マギ)を心得ている。


「ユニコーンに危険はなくて?」

「ございません、陛下。それでも私の見立てでは完全に浄化されるまで数ヵ月を要すると見ています。その間ユニコーンにも協力を仰がねばならないのですが」


 数ヶ月、交代でユニコーンを貸し出すか、あるいは翡翠の星騎士団の駐留を認めさせることになろう。

 それは本国の国防上、なかなかに厄介な申し出ではあった。

 しかしながら女王はその助力を受けようと思っている。

 贖罪の気持ちも多分にあったが、ハイランドとの国交を良好に保つことは必ずしも損ではなかった。


 エスメラルダとて周囲は安泰ではない。


 ただしあまり一方的に言い分を聞き入れるものでもない。

 こちらにも返礼があったという形が実行に際し望ましい。

 サトゥエの政治家としてのバランス感覚が鎌首をもたげたとしても無理はないだろう。


「仰ることは理解しました。ただしわたくしはまだ白姫殿のお力についてはよく理解しておりません」

「そ、それでしたら」


 声を上げようとしたアカメを制し、サトゥエはお付きの近衛隊長マーサに何事かを告げた。

 ほどなくして広間に一台の台車が運び込まれる。

 幅一メートル、高さ二メートルほどの何かがビロードで覆われていた。


「今から少しばかりショックを与えてしまうやもしれぬものを披露いたしますが、ご容赦ください」


 マーサがビロードの裾を掴みたくし上げた。


「白姫殿の力を確認したいのです。この方を、今この場で眠りから覚まさせてあげてください」


 運び込まれたのは大きなクリスタルの結晶体だった。

 その中で鮮血と共に眠る裸体の美女の姿があった。


「ハ、ハナイ様! どうしてここに!」


 ナナが心底驚いた様子だが、シオリはそのナナを押しのハナイの前で立ち止まった。

 そして右手で触れながらそっとつぶやく。


「任せてください」


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