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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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387 エピローグその1 光る風


 ようやく日中の雑務を済ませ、アカメはひとり、暗く静かな部屋へと帰り着いた。

 身体はくたくたに疲れていたが、思考はまだまだ冴えていた。


「今夜こそ、まとめられそうですかね。でもその前に……」


 書き物机に向かう前に棚上の火口箱を開け、部屋の中央のテーブルに置かれたランプに明かりを灯す。

 少し広めの室内にほのかな光が届けられた。


 光によって小綺麗に整頓された室内が浮かび上がる。

 続けてアカメは角に置かれたこの部屋には似つかわしくない、くたびれた背負い袋からお気に入りのコーヒーが入った小袋を取り出す。

 事前に粉末にしたコーヒーをカップに入れ、持ってきた水差しからお湯を注ぐ。

 水差しの底部はスライド式の蓋がある。

 内部に熱を放出する炎炭石(フレア・カートン)が収められ長時間の保温ができる仕組みだ。

 通年、気温が低めのハイランドではほぼ必須と言える。


「故郷のカザロ村にもこのような物があれば」


 大国の技術に少し嫉妬を覚えるが、コーヒーの旨さは変わらない。

 微かな香気と温もりに、わずかながらの満足を得ると、机上に広げたノートの傍に腰掛けた。


 まだなにも書かれていない。

 ペンを握りしばらく黙考する。

 やがてインク瓶にペン先をつけると、白紙の広がる一ページ目に最初の一文字目を書き始めた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ――その日、国中の人々が〈光る風〉をその身に浴びた事でしょう。


 多くの瓦礫に埋もれたハイランドの首都、聖都カレドニアをその風が吹き渡りました。

 門を、街路を、広場を、路地を。

 地上を、地下を、屋内を、上空を。


 余すところなく行き届いたその風は、人々を、いえ、生きとし生けるものすべてを温かく包んでくれました。

 それは誰もが理解し、感じ取りました。


 獣人と化した人々が元へと戻ったのですから。



「わたし……シオリッ」


 ハクニーは目を覚ますと勢いよく跳ね起きた。

 おぼろげな記憶の中で自分が獣化していったことまでは何となく覚えている。

 しかしそれがどれほど前のことなのか、自分が今どうして外で寝ころんでいたのか。

 その疑問を考えるよりもまずはシオリの安否が気になった。

 慌てて駆け出そうとするも足元がおぼつかずよろめいてしまう。


「おっと」


 そのハクニーを抱きとめてくれた者がいた。


「ごめんなさいッ」


 ハクニーがその者に向かい顔を上げるとそれは予想外の人物だった。


「その謝罪は何に対してだ?」

「に、兄さまッ」


 ケンタウロスの戦士ベルジャンがハクニーを抱きとめていた。

 背後には他にもケンタウロスの戦士たちがいる。


「兄さま、どうしてここに?」

「ハクニー」


 ハクニーがバツの悪い顔になる。

 一族を代表してシオリを護ると誓い集落を離れた。

 にもかかわらずシオリを見失い、挙句こんな場所で醜態をさらしている。


「ごめんなさい、兄さま。わたし」

「ハクニー」


 それ以上弁明も出来ないほど、ハクニーは強くベルジャンに抱きしめられた。


「兄さまッ」

「ハクニー。よかった、ハクニー。お前が無事で」

「兄さま」


 ベルジャンは妹の髪を優しく撫でる。

 自慢であった亜麻色の綺麗な髪が泥と埃にまみれてしまっている。


「ハクニー。よく頑張った。もうすべて終わったのだ。この国は救われた」

「やれやれ。ベルジャンの奴、妹を叱り飛ばすとか言ってなかったか?」

「ああ、言っていたな」


 背後に控えたケンタウロスのリピッツァとアパルーサがニヤニヤしている。


「う、うるさいぞお前たち! いいから他の住人たちの介護に行け! みんな続々と目を覚ますはずだ」

「ハハハ。了解!」


 笑顔を称えながら戦士たちが散らばる。

 それを見ながらベルジャンはようやくハクニーを解放するとひとつ疑問を投げかけた。


「ところでハクニー。お前、その下半身はどうした?」

「え?」


 ハクニーはケンタウロスでありながら下半身も人間のように二本足であったのだ。


「これはあのね」


 ハクニーは左手中指に嵌めた形態変化の指輪シェイプ・チェンジ・リングを見せながらベルジャンの説得を試みた。

  



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 街の人々が目を覚ましていく。

 不思議なことにみな獣化については覚えているし、長く続いた黒い雨の恐怖も覚えている。

 周囲を見渡せば街はそこら中に破壊の跡が目立ち、そしてそんな自分たちの介抱してくれていたのが異国の者たち、それも軍人だった。


 ケンタウロス族の戦士たちだけではない。

 今この街を甲斐甲斐(かいがい)しく奔走しているのは、数ヶ月前まで戦争状態であったはずのエスメラルダ軍であった。

 翡翠の星騎士団と星屑隊はハイランドの騎士たちに代わって今この街の安寧を護ろうとしてくれていた。


 それに対し目覚めたハイランドの人たちが混乱と反感を抱かなかったのは何故なのか。


 それはこの一連の奇跡がシオリによるものであったからだ。


 光る風の正体はシオリの癒しの光であり、その光は人々の肉体だけでなく、心までも癒していた。

 覚醒したシオリの姿は多くの人々の目にも入った。

 上空で街全体に向かい手を広げる純白のドレス姿のシオリ。


 誰からともなく、シオリを称える声が聞こえ始めた。


「救国の聖女様」


 と――


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