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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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383 ケンタウロスとユニコーン


 防戦は次第に激しさを増していった。

 バル・カーンの数は目に見えて増大し、ケンタウロスの数は明らかに不足していた。

 たとえひとりひとりが一騎当千の強者であったとしても、圧倒的な数による暴力の前には無力に等しい。


「ベルジャン! 空を見ろ!」


 アパルーサの警告に何事かと空を見上げる。


「あれは! あれが羽根つきか」


 いつの間にやら空一面を覆うほどの獣がベルジャンたちを包囲していた。

 背に翼をはばたかせ、こちらに向かい急降下してくる。


「フリューゲルとかいう奴らしいな」

「ああ。蒼狼渓谷(ウルブス・バレー)の奥地に潜んでいたという新種だったな」

「ベルジャン! あっちもだ!」


 続けてリピッツァの声が飛んできた。


「ゴア・バルカーンだぞッ」


 獣たちの隊列の奥に一際大きいサイズのバル・カーンがいた。

 それも数十体。

 どいつも敵意を剝き出しにした形相をしている。


「クソッ! 多勢に無勢か」

()ェィ」


 その時、空を覆うフリューゲルに向かい一斉に矢の雨が掃射された。


「射てィ! 一匹たりとも街へと近付けるな!」

「エスメラルダ!」


 放たれたのは街の外壁上に整列した翡翠の星騎士団三番隊による弓の一斉掃射だ。

 続けて門扉が開くと一番隊の騎士たちが戦場へと打って出る。

 指揮を執る女騎士が堂々とした足取りで近寄ってきた。


「貴公ら、役目はどうした?」

「時機完了する。もうしばらく持ちこたえれば我らの勝利だ」


 一番隊を指揮する女騎士ミオがベルジャンの横に並び立つ。


「ブルルゥッ」


 戦に気が昂っているベルジャンを威嚇するかのようにミオの愛馬が鼻息をあげた。

 白く気品のある馬体に額には黒くねじれた一本角。


「それがユニコーンか」


 彼女の乗馬はエスメラルダに五頭しかいない一角馬(ユニコーン)だ。

 翡翠の星騎士団の五人の指揮官にのみ与えられる。

 ユニコーンは清浄を旨とする神聖な幻獣でもあり、故に彼女らは名誉ある処女騎士の称号を賜る。


「ユニコーンとケンタウロスが並び立ったのだ。平原に我らに勝るものはなかろう」

「よく言った! その通りだろう」


 ミオの檄にベルジャンは大きく頷いた。


「すいませぇん」


 その二人の気勢を削ぐような、戦場には似つかわしくない気の抜けた女声で背後から呼びかけられた。


「うん?」

「なんだ?」


 そこには息を切らしたウンディーネがひとりいた。

 水精は微力ながら回復能力を持っている。

 そこでこの戦場でベルジャンたちの助けとなっていた。

 だがここにいるウンディーネはその役目を負っていた者とは違うようだ。

 彼女たちひとりひとりの顔を熟知していたわけではないが、戦闘開始時にはいなかったように思う。


「よかった。ユニコーンは無事ですね」

「どういうことだ?」

「キボシ様のご伝言です。ユニコーンを絶対に失ってはならない」

「キボシ?」


 ベルジャンには誰を指すのかわからなかった。


「言われるまでもないこと」


 ミオは自身の胸を覆う胸甲(ブレスト・アーマー)をガンと叩いて見せる。

 手綱を握る腕甲(ガントレット)が鈍い金属音を響かせる。

 それはなんとも頼もしい響きに聞こえた。


「よかった。キボシ様が仰るには明日のこの国を正常に戻すためにはユニコーンと水精(私たち)、そして白姫様が必要とのことです」

「そうか。よくわからぬが案ずるな」


 ベルジャンはミオのことが気に入りだしていた。

 どうやらこの騎士は自分と同じく脳を働かせるよりも剣を振るタイプらしい。

 だが相手を気遣う心も持ち合わせている。


「頼もしいじゃないか」

「ん?」



 ドガァァンンンン!



「うおッ」


 すぐ近くで爆発が起きた。

 爆風や石のつぶてが降り注ぐなか、ベルジャンはまず耳を叩いて鼓膜の正常を確かめた。


「なんだ!」

「青い火球! バスターカノンだ」

「てことは、ゴア・バルカーンだな」


 後方で隊列を組んだ十数体のゴア・バルカーンが続けざまに大口を開け次弾の充填を開始している。


「う、射てェ」


 慌てて外壁上の部隊が弓の攻撃を始めた。


「距離が遠い! 間に合わん!」


 斉射指示に何本もの矢が発射されるが、ゴア・バルカーンが吐き出した青い火球はその矢を燃やし尽くしながらベルジャンたちへと再び迫る。


「か、回避しろ!」



 ドガァアアン!



 先程よりも大きな衝撃が起こった。

 大地の震動と巨大な黒煙が立ち上る。


「く……無事、か?」


 ベルジャンの視界にほっそりとした銀色の足が見えた。

 視線を上げるとそこに凛々しい顔立ちをしたショートヘアの娘がいた。


「準備完了だ。全員速やかに街へと入れ」


 小柄な娘の可憐な口から厳しい口調の命令が発せられた。

 周囲を見てみると爆発はなにも破壊してなどいなかった。

 銀色の全身スーツの娘が、巨大で分厚い壁を支えていた。

 いや、自らの両腕を伸ばし、その壁を作りだしていた。

 街を守る外壁よりも高く広い鉄板である。

 少し(すす)けているようだが、壁が消え、娘の手指の形に収縮するとすべて跡形もなくなった。


「これが銀姫の力か! シオリ殿とはまた違った異質な力だ」

「ナナ様!」


 前線に赴こうとするナナの元へミオが走り寄る。


「行けッ、ミオ! 殿(しんがり)は私が務める」

「待て! ゴア・バルカーンの後ろに、さらに巨大な奴がいる!」


 リピッツァの声が聞こえた。


「バルカーン・ロードだ! ベルジャン!」


 その報告はしっかりと耳に届いた。

 最悪の事態だと思った。


「あれが、伝説に聞いたロード種なのか」


 すべてのバル・カーンを束ねる強大な獣の王だとされている。

 人里に出てくることなど聞いたこともなかった。

 だがナナは構わず前に出る。


「銀姫!」

「問題ない。マユミが奴とはやり合ったと聞いている。覚醒した姫神の敵ではないのだ」


 ナナの身体が銀色に輝いた。

 するとボディーラインも露わなスーツが変形し、メタリック調のシルバードレスへと変貌した。


「さあ早く行け。すぐに鳥かごを発動するぞ」


 ナナの瞳までもが恐ろしい銀色に輝きだしていた。


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