381 癒しの価値
「全開! 祝福を!」
「うおおっ! 最初からか!」
シオリの術技が発動する。
ウシツノとタイランの体に淡い光が纏わりつく。
恐怖心を和らげる「光の加護」は、二人に勇気を与え剣に鋭さを増してくれる。
「それでいい白姫。既に手合わせの段階は終了しているのだ」
ガトゥリンが褒めるように穏やかな口調で言う。
耳を貸さずシオリが先陣をきって攻撃を仕掛ける。
「閃光!」
パシィィッン! と光が破裂する剣の一撃をガトゥリンは右手を上げてブロックする。
そして空いた左手で飛び込んできたシオリに殴りかかる。
「ガマ流刀殺方! 質実剛剣ッ」
その左手を飛び込んだウシツノの攻撃が迎撃する。
ガトゥリンの左手はウシツノの剣が防いだが。
「なッ! オレの一番攻撃力の高い技でも腕ひとつ斬り飛ばせないのか」
「言ったであろう。これは神の戦いだと」
「雷鳴」
ドドン! という衝撃が嘲笑するガトゥリンの下腹部に生じ数メートル後退らせる。
「私も言った。彼らは信頼に応えてくれると」
目の前に赤い影。
タイランの剣がガトゥリンの両目を正確に狙い横に薙ぐ。
さしもの獣神も咄嗟の攻撃に目を閉じ腕で庇ってしまう。
致命傷は避けられたが続くシオリの行動に対し致命的な遅れをとッた。
「電光!」
ズブリュッ、と相手の腹に突き刺した剣から電撃が放たれる。
「ブォォッ!」
全身を黒焦げにしながらガトゥリンが悶えた。
「やったか!」
ウシツノの歓声にもシオリは油断しなかった。
その不安は当然で、電撃が消えてもガトゥリンが倒れることはなかった。
剣を引き抜くとシオリは距離をとった。
「フハハ……」
なおも静かな笑い声が広間に響く。
「なかなかだ。お前が火力の高い紅姫か藍姫であったら我も危なかった」
「なんだと! シオリ殿の攻撃が弱いと言うのか!」
気色ばむウシツノを見下すようにガトゥリンが続ける。
「そうだ。だからこそ、せめて防御の硬い銀姫を伴わない愚策を我は嗜めたのだ」
「シオリの回復能力は何物にも代えがたい」
「癒しで我を調伏できると思うか」
ガツン、とタイランの一撃を受け止める。
「シオリがいればオレたちは死を恐れず立ち向かう事が出来る」
「ならば死兵を扱う黒姫や、無機物すらも操る桃姫の方が都合がよかろう」
剣の刃を掴むとそのままタイランの体ごと振り回す。
「そうら!」
「ッ!」
そして離れた位置にいるアカメに向かいタイランを思い切りぶん投げた。
「クッ」
剛速球と化したタイランは軌道修正を試みるも強烈な慣性がそれを許さない。
アカメに衝突しながら二人ともに壁に叩きつけられる。
「輝く盾」
衝突の瞬間、可視化された光の盾による自動防御が働く。
寸でのところで発動したシオリの術技が二人のダメージを肩代わりしてくれた。
「あ、あ、あ、ありがとうございますシオリさん」
「すまんシオリ」
「うん。でも気を付けて。今の一撃だけで輝く盾の許容量を超えてしまった」
確かに、タイランは今の衝突で少し左肩に痛みを覚えていた。
「フハハ、この程度では覚醒を見せぬか」
「覚醒……」
それは姫神の更なる力を引出す〈旧きモノ〉の事だ。
マユミはその愛と美の女神を自由に使えるが、シオリは以前に一度、ケンタウロスの集落で覚醒したことがあるのみだった。
「知っているぞ。光をもたらすもの。大層なモノを宿らせているようだが、出し惜しみできる状況か?」
「く……」
やはり変だ。
そんななかアカメの中で疑問が渦巻いていく。
ガトゥリンの目的はなんです?
邪魔な私たちを始末したいとは思わないのでしょうか?
なのにこちらに何かを促そうとするなんて。
それともそれほどまでの余裕をもって、この戦いに臨んでいるのでしょうか?
「さあどうすればお前はルシフェルを出せるのだ? 白姫よ」
「……」
「連れてきた仲間が全員、無惨な姿にでもなれば目が覚めるか?」
「そんなことはさせない!」
「なら早いとこ目覚めるのだな! フハハハハッ」
今度はガトゥリンがシオリに向かって突進してきた。
超巨大な蛇の胴体を背中で蠕動させながら、超重量の突撃で圧し潰す算段だろうか。
それを迎え撃つシオリが懐から何かを取り出す。
「それはッ!」
「装甲竜騎兵ッッッ」
シオリが取り出した青い小箱が開閉する。
まばゆい光を放ちながら、解体され、大きく細かく展開する金属がシオリを包み込む。
「貴様ッ」
ドカン、とシオリがガトゥリンの身体を正面から受け止めた。
ズズズ、と数メートル押し出されたところで二人の動きが止まる。
「白姫に我の突進を止めるパワーがあるとは……その神器のせいか」
シオリの全身は鎧化したパンドゥラの箱に包まれていた。
全身のいたる所に青く輝くオリハルコンの防具が煌めく。
「私にはヒカリさんもついている。千年前のヒカリさんの無念、今日ここで払ってやります」




