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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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378 シオリの決意


 アカメを含む翡翠の星騎士団と、ベルジャンの引き連れたケンタウロスの戦士たちが聖都カレドニアに到着した。

 その瞬間、彼らは目撃した。

 街の中央、王城ノーサンブリアの頭上に位置する上空に光り輝く宮殿が浮かび、その宮殿へ向けて一匹の巨大な龍が登っていくところを。


「なんだ今のは?」


 ベルジャンの問いに答えられる者などいない。

 しかし街を覆う外壁は大半が崩れ、深夜でもないのに街から人々の喧騒と呼べるものがひとつも聞こえてこない。

 これほどに異様な静けさを見てアカメの心がざわついていた。


「スガーラさん。馬を王城まで飛ばしてください」

「わかった。ミオ! メア! 一番隊と三番隊は街の外で布陣し待機せよ」


 翡翠の星騎士団から随行している二人の処女騎士が命令に従う。

 それに倣いベルジャンも配下のケンタウロス戦士に指示を出す。


「オレとリピッツァでアカメに着いていく。残りは街の外周を精査しておけ」

「ハッ!」

「お、おい後輩よ! 吾輩は……?」


 レームが戸惑うのを尻目にアカメはスガーラとすでに駆け出していた。


「……う、うむ。ここで待機していよう」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「これは……」

「激しい戦いが行われていたようです」


 街の中を疾走するベルジャンが息を飲む。

 崩れた瓦礫の合間にいくつもの横たわる獣人の姿が見える。

 襲い掛かる意気はないようで、遠巻きにアカメたちを見ている。

 というよりも、みなそれぞれにダメージを負っているようだ。


「しかしトドメは刺されなかったようだ。何故だ?」

「元は人間だからです。シオリさんは彼らを殺さない道を選んだ」


 アカメの推察に異を唱える者はいなかった。


「城が見えたぞ」


 リピッツァの声に顔を上げると、一行は王城前の広場に差し掛かったところだった。

 そこは意外なことにこれまでほどの獣人の姿は見えなかった。


「あれは!」


 しかし広場の真ん中で淡い光が輝いているのが目についた。


「シオリさんです!」

「ナナ様!」


 アカメとスガーラが同時に叫んだ。

 シオリはアカメの声に背を向けたままだが、ナナはスガーラの声に応じ片手を上げた。


「ナナ様!」


 馬から飛び降りスガーラがナナの元へと駆け寄った。

 おかげでずり落ちそうになったアカメをベルジャンが咄嗟に抱える羽目になる。


「ナナ様! ナナ様! ご無事でしたか!」

「なんとかな。心配をかけたなスガーラ」

「いいえ。ナナ様がご無事で本当によかった……」


 うっすらと目に涙をためたスガーラの目元をナナが優しく指ですくってやる。


「シオリさんは、何を……」


 ずっと背中を向けたまま光を発し続けるシオリをアカメが観察する。

 シオリは姫神のままの姿で座り込み、一心不乱に光を発し続けていた。

 そのシオリをサポートするかのように複数のウンディーネが取り囲んでいる。


「獣人を元に戻そうとしているのだ」


 そう教えてくれたのは予想外の人物だった。


「お前は! 剣聖」


 リピッツァがいち早く反応する。

 集落を一万ものパペットでもって襲撃しにやって来たのがこのケイマンだった。

 リピッツァの中に敵意が膨れ上がる。


「今はよせ」


 それをベルジャンが落ち着かせた。


「……クランのせがれとクァックジャードじゃ。嬢ちゃんが必死になって戻そうとしておるんはの」


 少し離れた位置で刀にもたれながらケイマンが教えてくれた。


「ウシツノ殿と、タイラン殿……」

「まさか、この二人までもが獣人になっていようとは」


 だがシオリの渾身の回復術は功を奏したようだ。

 なんと二人の姿が徐々に元に戻っていく。


「だが力を振り絞り、それなりの時間をかけ、さらにウンディーネの手助けがあって初めて癒せるレベル」


 ナナが厳しい表情になるのも仕方がない。

 元に戻すべき獣人はこの街に数万といる。


「シオリさん……」


 ウシツノとタイランが元の姿に戻ったのを確認して、アカメがシオリに声をかけた。

 何も言わず、シオリの変身が解ける。


「はぁ……アカメ……さん」


 疲れた顔ながら笑顔を作りアカメに振り向いた。


「獣化を治すことは出来るんですね」

「うん。できたよ」

「しかしとても街全体を治すことは……」

「ううん、治すよ」

「シオリさん……」


 膝に手を当てながらゆっくりとシオリが立ち上がる。


「無茶です。ひと目で疲労が見てとれます。それで回復など」

「ごめん。街のみんなを治すのはあとまわし」

「え?」


 シオリがナナを見つめる。

 ナナが静かに目を閉じる。


「意志は変わらないのだな?」

「はい。ナナさん、お願いします」

「な、なんの話です?」


 うろたえるアカメの足元で呻く声が聞こえた。


「う、うう……ここは? あ、アカメじゃないか」

「ウシツノ殿! 目が覚めたのですか? それにタイラン殿も」


 二人は頭を振りながら起き上がり周囲を見渡していた。


「ウシツノ。タイランさん。目が覚めたばかりで悪いんですけど」

「シオリさん?」


 シオリがウシツノとタイランの前に出る。


「今スグ光の宮殿に乗り込みたいと思います。そしてガトゥリンを討ちます」

「え、ええっ!」


 アカメだけでなく、ベルジャンたちも驚いた。

 ナナとケイマンは一言も発せず、ウシツノとタイランは記憶をたどるので精いっぱいだった。


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