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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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373 白姫シオリvs銀姫ナナ

挿絵(By みてみん)


 背中の羽を広げ、高い塔の外壁に沿って、シオリは上昇し続けた。

 目指すはゼイムスのいる第三の塔、崩落した謁見の間。

 翼を持つ獣、フリューゲルが何匹も阻止せんと襲ってくるが、シオリは容赦なく斬り捨てていく。

 ヒトが獣化したのではない、バル・カーンやフリューゲルに対してまで、慈悲の心を抱くのは困難だった。


 天から降る雨粒に目を細めつつも、シオリはスピードを緩めず一気に謁見の間へと突入することにした。

 すでにゼイムスと交わす言葉を持たない。

 ならば臆せず先制攻撃をしようと考えていた。


 羽を大きく広げ上昇を急停止すると、休まず角度を変え玉座に向かい急接近する。


「ゼイムスッ」

「来たな白姫」

「ッ!」


 しかしシオリの目論見も急停止せざるを得なかった。

 玉座に座るゼイムスは、その膝の上に気を失い、姫神の変身も解けたマユミを盾のように抱きかかえていたからだ。

 油断なく着地し、ザッと周囲を見回すが、虹蛇も、他の者の姿もない。

 ただ弱い雨がシトシトと降り続けるのみだ。


「孤軍奮闘、勇ましいことだ」

「マユミさんをはなして」


 言いながらシオリは背後に剣を一閃させた。

 まばゆい光の衝撃が、音もなく飛び掛かってきた白いスーツ姿の獣人を吹き飛ばす。


「ギャォウッ」


 壁に叩きつけられて動かない獣人を一瞥すると、ゼイムスは少し顎を上げ背後に声をかけた。


「銀姫」


 ゼイムスの声に玉座の裏からひとりの娘が現れる。


「ナナさん……」


 一瞬シオリの声が沈む。

 まだ幼さを感じるほどに、鏡のような光沢を放つスーツでほっそりとした全身を覆われた銀姫、ナナだ。

 暴走して巨大な球体状に変化していた彼女が元の姿に戻っている。

 しかし虚ろな目が彼女に自我が定まっていない事を示唆している。


「ヂーセプーゾ ナナ」

「?」


 シオリにゼイムスの言い放った言葉はよく聞き取れなかった。

 しかし意味はすぐ理解できた。

 おそらく命令されたナナが剣を取り出しシオリに向かってきたからだ。

 クリスタルの刀身を持つ銀姫の神器、銀星号(ザ・シルバースター)だ。

 シオリは見るのも初めてだが、その能力はマユミから聞いている。


「はっ!」


 クリスタルの剣先から水が噴き出しシオリに射出される。

 シオリは無闇に受けようとはせず、大きく間合いを計って余裕をもってその水を避けた。


「ッ!」


 放出された水は瞬く間に水晶のように輝くクリスタルの柱へと結晶化してしまった。


「あの水に触れると結晶化する。これがナナさんの技、クリスタル・フリーズ」


 ククク、とゼイムスが玉座で高笑いする。


「知っていたところで防ぎようがあるまい白姫。その光の剣とてクリスタルに変える技ぞ」


 ナナが再び剣を振る。

 今度は一太刀どころではない。

 二度三度と剣を振り、その都度クリスタル化する水を放射する。

 気を付けるべきは剣ではなくこの水だ。

 あの剣を相手に間合いを測る意味は薄い。

 シオリは果敢にもナナへと向かい突進した。


「莫迦め。クリスタルとなり砕け散るがいい」


 大量の水がシオリに降りかかる。

 シオリはその水を正面から浴びるに任せた。


「ムッ!」


 ゼイムスの顔が曇る。

 キィン、という音が響き、シオリの眼前に光の盾が出現していた。

 突然現れたその盾がクリスタルの結晶と化し床に落ちる。

 シオリの術技(マギ)輝く盾(ブリエ・ブークリエ)は対象の受けるダメージを事前に察知し肩代わりしてくれる。

 被ダメージの限界に上限はもちろんあるが、この場合は結晶化したことにより一発で盾が剥がされてしまった。

 しかし一発防いでくれれば十分。

 クリスタル化した盾を左手に掴み、続けて放射されていた水を防ぎきると、ナナの懐へと一気に踏み込んでいた。


「えぃッ」


 下段から逆袈裟斬りに光の剣を見舞う。


 ブォンッ!


 瞬時にナナの銀色のスーツが風船のように膨らみ剣を弾き返す。

 その反動でナナは大きく後方に跳び、再び間合いを遠ざける。


「愚かな白姫! 銀姫は千変万化、最硬の攻防を併せ持つ! 剣で斬るなど……ッ」

「ごめんね、ナナさん」


 胸前で十字に組んだシオリの両腕から雷撃がほとばしる。


「必殺! 稲妻光線ッ」


 まっすぐ照射されたいかずちがナナに直撃した。

 さしもの銀姫のスーツも電撃の直撃は相性が悪く、はげしい熱と衝撃とに大きく吹き飛ばされていた。

 ブスブスと焦げた匂いと煙が立ち上り、打ちつける雨が蒸気となってナナを苦しめた。


「やってくれる」


 予想外の一方的な決着にゼイムスが苦い顔をする。


「さあマユミさんを放して。でないと」

「それはできん相談だな」


 ゼイムスがより一層マユミを抱きすくめた。

 かたくなにマユミを放そうとしないゼイムスの執着がシオリには理解できず、また我慢の限界も近かった。


「オレの手駒は獣人と銀姫だけではないぞ」

「うっ」


 ゼイムスの声にマユミが小さくうめき声をあげる。

 同時に上空から覚えのあるプレッシャーをシオリは感じた。

 この威圧感は間違いない。

 再度あの巨大な虹蛇をここへ降ろそうというのだろう。


「ッ……」


 そこでシオリはひとつの違和感を感じた。

 ゼイムスを見、そして自身の懐を探り、そしてマユミを見る。

 懐には確かにある。


 パンドゥラの箱。


 前回ゼイムスから奪取したものだ。

 この箱を使い、虹蛇を鎮めるのが目的だった。

 だからここへ虹蛇を召喚()ぶのはシオリにとっても都合がいい。

 だが、だからこそ違和感を禁じ得ない。


 何故、箱もなしにゼイムスはナナや虹蛇を操れるのか。


 その時キラリと光る宝石をシオリの目が捕らえた。

 マユミの額に嵌められたサークレットについた黒メノウだった。


(まさか、あのサークレットはマユミさんを操る魔道具なんじゃ……)


 ゼイムスは魔道具を商う商人に扮していたが、元は盗賊ギルドで魔道具を管理する立場にいた。

 ウシツノが破壊したマユミの仮面も出所は同じだろう。

 似たようなマジックアイテムをいくつか持っていてもおかしくはない。


「ここだエインガナよ! 白姫を亡き者にしろ!」


 ゼイムスが上空に向かい声を張り上げる。


(あの虹蛇は、マユミさんが操っている! 私がこの箱を使って、果たしてマユミさんの力を上回ることが出来る?)


 シオリは懐に忍ばせた箱を握りしめ、降りてくる虹蛇を緊張した面持ちで凝視した。


2025年9月23日 挿絵を挿入しました。

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