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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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363 魔女の細胞


 箱が開いた。

 白く繊細な指先で箱を撫でつつ、歌うようにゼイムスは話し始める。


「神器にはそれぞれ特殊なチカラがある。そうだろう、白姫?」


 こちらを見つめる目に気後れしないよう、シオリが柄だけの自分の剣を握り締める。


「このパンドゥラの箱もただの箱ではない。この箱は……」


 箱が開ききると同時にパタパタと解体されゼイムスの体を包み始める。

 足から足首。

 手から手首。

 膝。

 肘。

 腰。

 胸。

 首から頭部に至るまで。


「正式名を装甲竜騎兵パンツァー・ドラグーンという。この箱は」


 全身を蒼く輝くオリハルコンの鎧に固めたゼイムスが突然向かってくる。


「ッ」

「最硬の装甲となるッ」


 咄嗟に身を翻しタイランはゼイムスの突進をかわす。

 赤い羽根がマントのようにはためき、いかにも闘牛士(マタドール)を思わせる。

 だがやり過ごしたはずのゼイムスが超スピードで反転し、振り向いたタイランの眼前にすでに戻ってきていた。



 ガンッ!



 と音が響く。

 手甲に包まれたゼイムスの拳をタイランは剣で防御し受け止めていた。


「さすがは神器。並みの剣なら容易に砕けていたものを」

「ギリッ」


 タイランがくちばしを噛み締める。

 それほどまでにゼイムスの押す力が強い。


「フフ、そうだ。この鎧は装着者の筋力を飛躍的にアップさせる。もちろん使いこなせれば、だがな」


 徐々にタイランの膝が折り曲がっていく。


「お前はどうだ? まだその剣を多少質のいい武器程度にしか認識できていないんじゃないか?」


 タイランの膝が地に着く。


「もっともォ、チカラを引き出せるのは姫神に限るんだがなあ!」


 ゼイムスがもう一方の拳で殴り付けてくる。

 タイランは抗うのをやめ、力を抜くと、勢い余って床を叩くゼイムスから抜け出し距離をとった。

 殴られた床が激しく崩落し下の階まで大穴が空く。


「逃げることしか出来んよなァ! オレ様のこのパワーからは」


 悦に浸るゼイムスをシオリは冷ややかに見ていた。


「なんだ白姫? その目は」


 その視線に気付くとゼイムスは不機嫌そうにシオリに詰め寄った。


「あなたは勘違いをしている」

「なんだと?」


 しかし臆することなくシオリは言葉を紡いだ。


「その鎧はあなたを強くなんかしていない」


 姫神であるシオリにはわかる。

 この神器はそんな都合のいい代物ではない。


「その鎧はあなたを動かしているだけ。あなたは鎧に操作されているのよ」

「莫迦なことを」


 小娘が、と嘲るような調子が滲む。


「気付いてるんでしょ? パワーを与えられたわけではない。無理に動かされているだけだって。そのままではあなたの肉体は到底もたない!」


 ス、とゼイムスの目が細くなる。


「フ、フフ」


 やがて自嘲気味な笑みがこぼれ、


「ハハハハハハッ」


 大きな笑い声になる。


「それも一興! どうせこの身体は仮初めに過ぎん! オレはホムンクルスだ! 造られた人形なのだ! この身体も、この記憶も、なにもかも失ったところでどうということはないッッッ」


 まくしたてると一転、静かな声で、


「愛着など、ないのだ」


 と、つぶやいた。


「ホムン……クルス?」


 ゼイムスのあまりに不安定な様子と、理解が追いつかないセリフにシオリは困惑する。

 ゼイムスは全身に力を込め、その拳を今度はシオリに向けて襲い掛かる。


「もはやオレの身体などどうなろうと構わん! だからお前らも迷わず死んで逝けッ」


 目前に迫る拳を横から止めに入ったのはタイランだった。

 シオリの長い髪が拳圧と剣圧でひるがえる。

 顔の前で拳をタイランの剣が受け止めていた。


「邪魔をするか赤い鳥よ! お前から先に殺してやろうか!」

「ならば冥土の土産に教えてほしいものだな。なぜ貴様は箱を開けることが出来る」


 箱は姫神でなければ開けることが出来ないはずであった。

 しかしゼイムスは箱を開け、その力を解放している。


「言ったろう! オレは造られた人形だと! この身体には、金眼の魔女の細胞が埋め込まれている。奴も昔は、姫神だったんだろう?」


 拳を強く振り抜きタイランを突き飛ばす。


「金眼の魔女だと!」

「それって、あのオーヤって魔女のこと」


 タイランとシオリが思わぬ名前に驚嘆する。

 その会話はウシツノにも届いていた。


「おい! 聞いたか? あいつはゼイムスじゃないんだとよ」


 対峙する殺し屋の男、エユペイとは一進一退を繰り返していた。


「あいつは本物のゼイムス皇子じゃないんだ。お前が守る必要はないんじゃないか」


 ペッ、と唾を吐き出しウシツノを睨みつける。


「知能の低いカエルめ。なにも理解していないな」

「なに」

「奴がゼイムスだから守るのではない。奴自身がオレを雇った。それだけだ」

「……」


 怒りがそうさせたのか。

 エユペイの繰り出す攻撃が鋭さを増す。


魚雷(ギョライ)ッ」

「くっ、ガマ流刀殺法、風林火斬ッッッ」


 お互いの攻撃が正面から激突した。


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