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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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359 トーンの死


「貴様本当に、ゼイムスなのか……」


 目の前の空中に無数の獣が舞っていた。

 王城ノーサンブリア第三の塔、謁見の間はかなりの高所に位置する。

 そのテラス。

 曇天の黒い雨の中、トーンの目の前に獣を引き連れた男がいた。


 生きている――。


 そういう噂があることは知っていた。

 根も葉もない、と聞く耳を持たなかった。

 だが実際には、信じたくない、というのが本音だったかもしれない。

 事実、目の当たりにしたところで到底容易に受け入れられるものではなかった。


幽霊(ファントム)だ、とでも言えば納得するのか?」


 覚えのある憎まれ口を耳にして本物だと確信する。


「現実より霊魂を信じるようでは王は務まらん」

「減らず口を!」


 この憎たらしさは間違いなくゼイムスだ。


 生きていた。


 いや、死んでなどいなかった。


「ならば今ここで貴様を成敗し、この怪異を我が手で終わらせてくれる!」


 トーンの威勢をゼイムスはさらりと受け流す。


「成敗とはお前が使っていい表現ではない」

「黙れィ」


 トーンの投げつけた銀のダガーを一匹の獣が掴みとる。


「交渉に応じる気はないようだな」

「交渉だと?」

「そうだ。無条件で降伏し、お前は自害せよ」

「ふざけるなッ」


 トーンが大剣を引き抜き床に叩きつける。

 轟音と火花が散り、床の大理石が砕けた。。

 並みの兵士が両手で振る大型剣フランベルジュを片手で扱う剛腕だ。


 しかしその威勢もゼイムスを怯ませるまではいかない。


「所詮は筋肉でしか語れぬ奴よ。掃討せよ。城にいる者は皆殺しだ」


 ゼイムスの命令で一斉に空を飛ぶ獣フリューゲルたちが襲いかかった。

 何匹もの獣が真っ先にトーンへと殺到する。


「おのれィ」


 フランベルジュを軽々と振るうトーンだが、素早く跳ね回るフリューゲルにいいようにあしらわれる。

 さすがに数匹を屠ることは出来ても、無尽蔵かというぐらいに襲い来られては歯がたたない。


 数匹の獣に組み着かれるとトーンはテラスを超えて宙吊りのまま、ゼイムスの眼前に引き立てられた。


「ゼイムスッ」


 トーンが歯ぎしりしながらゼイムスを睨みつける。

 ゼイムスは懐より、よく手遊んでいた短刀を取り出した。


「この剣は曰く付きでな。弟が兄を刺し殺したという逸話があるのだ。私はこの剣が何故か好きでな」


 短刀の刃にゼイムスの歪んだ笑みが映る。


「ゼイムスッ、貴様、なぜ生きていたッ」


 トーンの詰問は今日のことではない。

 それはゼイムスにも伝わった。

 三十年前のことを指している。

 それほどに憎らし気な詰問であった。


 それだけに、ゼイムスはこの男を憐れむことしかできなかった。


「わるいが、本物のゼイムスならとっくに死んでいる」

「なに?」


 ブスッ、と音がした。

 ゼイムスの短刀がトーンの腹部に深々と突き刺さっている。


「グハッ」

「お前は獣化しても部下にはいらない。さらばだ。ゼイムスの従兄弟よ」


 獣どもが手を離す。

 トーンの体は高空で何の支えもなくなる。

 そのまま、王城に殺到していた群衆のただ中へと落下した。


 そこに群がっていたのは先程までは確かにヒトだった者たち。

 今は牙を鳴らし爪を研いでいる。

 その中へ、トーンは背中から地面に落ち、息を引き取る。


 一瞬の衝撃で意識がなくなる。

 間際、傍らに立ち自分を見下ろす者の姿が目に入った。


「逝ったか」


 両腕の先がないトカゲの老人だった。

 城の高い尖塔を見上げ、(きびす)を返す。


化生(けしょう)の類い。相手には出来ん」


 興奮冷めやらぬ獣の群れの中を何事もないように歩み去る。


 ケイマンの背中越しに城が落城していった。


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