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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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357 七番目

 鳥が飛んでいた。

 トンビだろうか。

 そのトンビが叩き落とされた。

 叩いたのは銀色の巨大な手だった。


 空を飛ぶ、家一軒分ほどの大きさのある、銀色の塊から生え出たそれは腕だった。

 悠々と曇り空を飛行している。

 形は饅頭のようなゼリーのような、プルプルと全身を揺すっているかのようだ。


「なんなの、あれ?」

「周囲を飛ぶものを無差別に攻撃しているようだ」


 腕を引っ込めた塊はまた、不定形の球体に近い形に戻ると静かに飛行し続けた。


「あれもガトゥリンと関係あるのかな」

「さあな。大丈夫だと思うが、悟られないように行こう」

「うん。タイランさんは向こうに落ちたよ」


 慎重に球体の様子を伺いながら二人は平原を突っ切る。

 球体はウシツノとシオリに気付くこともなくカレドニア方面へと飛んでいった。


「もう大丈夫だろう」

「あそこ! タイランさんが!」


 草むらに赤い鳥の騎士が倒れていた。

 その近くにもうひとり倒れている者がいる。

 贅沢なほどにブクブクと太っている人間の男だった。


「こいつ、確か三皇子のひとり……え、と、そう! クネートだ! 何でこいつもいるんだ?」

「この人がいたからタイランさん逃げ切れなかったのかな」


 確かにこの人間を抱えて飛ぶにはさすがのタイランもヘビーだったろう。


「う、うぅ」


 そのタイランが短く呻く。


「よかった生きてる! すぐに治療を」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「そうか。それでネアンを目指していたのか」


 シオリの治療で無事に息を吹き替えしたタイランは、ウシツノの説明でだいたいの事情が飲み込めた。


「タイランさんはなんでこいつと一緒なんです?」

「うむ」


 タイランの説明によるとこうだった。


 カムルート砦でエスメラルダの大司教、ライシカの悪事を暴いた後、カレドニアへと戻る途上でネアンの難民と合流することになった。

 まだバル・カーンの跋扈(ばっこ)する平原で見捨ててはおけず、共にネアンへと赴き、状況が落ち着いたことで再び帰路に着いた。

 せっかくだからと南のウラプールの様子を探って行こうと立ち寄ったところ、


「クネート皇子に遭遇したというわけさ」


 タイラン同様シオリに癒されたクネートは、今はウシツノの淹れたホットミルクを飲んで一息着いていた。

 顔を上げて本人もその説明を肯定する。


「ふぅ、そうなんだ。タイラン殿には命を助けられた。この恩は生涯忘れない。あ、もちろん、あなた方二人も」

「だそうだ」


 タイランが会話を締めくくった。

 するとクネートはおもむろにシオリの手を握り顔を近づけた。


「本当に感謝しています。特にこちらのお嬢さんには不思議な力でボクの命を助けてくれた」

「い、いいんですよ」


 少し戸惑いがちにシオリが手を引く。

 その手をがっちりと握りしめたままクネートはなお食い下がる。


「いいわけがない。あなたはボクが好きなのでしょう。だからこそ、助けてくれた」

「ええッ!」

「お名前をお聞かせ願えますか?」

「シオリ、です」

「シオリさん。なんと素敵な……その名前までもがボクを癒してくれる」

「あ、あの……」


 会話の流れが読めなくて少し怖い。


「シオリさん。感謝の印としてボクの七番目の妃としてあなたを迎えようと思う」

「はっ?」

「そうだね! 早速帰って式の準備に取り掛かろう。いざ」

「おいッ」


 そこでウシツノが割ってはいった。


「いい加減にしろ」

「何がだい?」

「なにがって……」

「君は何を怒ってるんだい?」

「なんだっていいだろ。変な話をするなよ」


 ウシツノがまだ手を離さないクネートの手をシオリから引き剥がす。


「変ではないぞ。王室に誘ったのだ。これ以上のご恩返しがあろうか。シオリさん、是非考えておいてくれたまえ」

「……え、と」


 クネートがシオリに気持ちの悪いウィンクを披露する。


「は、はは……」


 シオリは曖昧に笑って誤魔化しながらチラリとウシツノを盗み見た。

 不機嫌そうに腕組みなんかしてる。


(ウシツノが怒るなんてね)


 なぜかうれしい気持ちが沸き起こった。


「そ、それはいいとして。タイランさん、あの銀色の球体はなんです?」


 気を取り直してウシツノがタイランに問いかけた。


「おそらく銀姫だ」

「銀……ッ」


 答えは予想外のものだった。


「調査隊として向かったウラプールでクネート皇子が遭遇したらしい」

「その通り。同行した騎士たちはみんな暴走した銀姫に殺されてしまった」

「暴走?」

「とても苦しそうにしていながら『制御できないから逃げろ』と言ったんだ」


 そしてあのような巨体に化け、襲われたらしい。


「いろんな形に変化していたぞ。ボクもたくさんの口が突き出てきて喰われそうになったところをタイラン殿に助けられたのだ」

「たまたまタイミングが間に合っただけだ」


 そのまま皇子を抱えて逃げようとしたらしい。


「何故暴走したのかはわからんが、銀姫はカレドニアへ向かったようだな」

「実はその前に大勢の獣を連れたゼイムスもカレドニアへ向かうのを目撃したんです」

「ふむ」


 どうするべきか思案に暮れる。


「やはりネアンにいるアカメに状況を伝えるべきだろう。そこにはレーム皇子もいるのだしな」

「そうですね」

「ただ、カレドニアも放ってはおけぬな。そこで」


 タイランがクネートを見る。


「クネート皇子、あなたに頼みたい」

「は?」


 クネートが首を傾げた。


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