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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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352 オーブ・アマテラス


 街の東門は修繕が済んでいなかった。

 外界と隔てる大きな門は閉じられたままだが、崩れた外壁が至るところに見受けられる。

 小柄なカエルや女なら潜り抜けることは出来そうだ。


「見張り役もいないなんて」


 本来ならそこに配置されるであろう衛兵の姿もない。


「行こう」


 ウシツノを先頭にシオリとマユミが続いた。


 平原に出ると雨を遮るものは何もない。

 遠くに小川と雑木林が目につく。

 街道沿いに歩けばあの雑木林をかすめる事になる。

 小さな石造りの橋を渡るときに見た小川の水もやはり黒かった。


「あのさあ」


 沈黙を破ったのはマユミだった。

 テクテクと無言で歩くのにも飽きてきていた。


「さっき言ってたヒカリって、千年前の白姫の事よね? どうやってこの雨を止ましたのかな?」


 ズァと言う偉丈夫が開口一番に話したことについてだった。


「無毒化した、と言っていたから止ませたとは限らないんじゃないか?」

「むむ」


 まさかのウシツノに訂正されるとは思わなかったのでマユミは思わず鼻白んだ。


「わからないよ」


 シオリが答える。


「そのヒカリって人さ、あの箱の持ち主なんだよね?」

「パンドゥラの箱? うん、そうだよ」

「その箱って何ができるの?」


 マユミの問いにシオリはしばらく考え込んだ。

 夢で見たことと伝え聞いたことを総合してまとめようとする。


「え、と……正式には装甲竜騎兵(パンツァードラグーン)と言って、対象を金属製の甲冑で拘束して封印する物みたいなの」

「てことは箱にガトゥリンが封印されていたってことは、そのヒカリってのがやったんだ」

「封印はそうだけど、ガトゥリンを倒したのはさっきの人だったんだよ」

「ズァ」

「そう」


 それがシオリの見たヒカリに関する最後の夢であった。


「そのあとヒカリさんはズァに連れてかれちゃったの」

「シャマンたちの仲間の金姫と同じように、か」


 たかが夢の話だと一笑に付すわけにはいかない。

 シオリは姫神だ。

 不思議な体験は今までいくらでもしてきた。

 ウシツノもきっとこの夢は真実だと思った。


「相手を封印する箱でどうやってこの雨を止ましたっていうの!」

「封印するだけなのか?」

「どうだろう? でもアルザックという飛竜を連れていたけど、ガトゥリンを封印するまではこの飛竜の装甲の役目をしていたよ」

「鎧としても使えるのか」


 だからと言って答えは見つからなかった。

 次第にウシツノは考えるのに疲れてきた。


「アカメならどう考えるかなあ」

「まぁたアカメ? たまには自分で考える努力をしなよ」

「し、しているさ」


 マユミに言われ必死に取り繕う。

 ついさっき、考えるのをアカメに任せすぎたと反省していたばかりだというのに。


「けどオレに出来るのは結局のところ剣で斬るだけなんだよな」

「そんなことないよ。ウシツノは料理も出来るじゃない? ブドウグラタン美味しかったよ」

「はは……」


 シオリの励ましに苦笑いしか出なかった。


「そうだな。もう少し真剣に悩んでみるか。シオリ殿、他になにかわかることはないか?」

「わかること?」

「例えば姫神ってさ、〈旧きモノ〉っていう存在を宿しているって言ってたろ?」

「うん」

「ならヒカリってのも何かを宿してたんだよな。それはわかるか?」

「そう言えば言ってたよ。たしか……天照巫女(オーブ・アマテラス)

「アマテラス? アマテラスってあの?」


 マユミは何か知っているようだがウシツノにはわからない。


「知っているのか?」

「有名だもん。ねえ」


 シオリに同意を求めたがシオリにもわからなかった。


「あれ? ゲームとか全然しない人? 結構いろいろとよく出てると思うんだけどな。古事記とかに出てくる神様だよ。たしか、太陽神」

「古事記?」


 そういう話に詳しい友達ならいた。

 事故で車いす生活になった彼女を助けた代償として、この世界に迷い込んだもだとシオリは信じている。


「前から不思議だったんですけど、この世界って私たちのいた世界とは全然違う世界なんですよね?」


 シオリの言葉にマユミが「そうね」と答える。


「だけど、私に宿るルシフェルとか、マユミさんのアフロディーテとか、私たちのいた世界の神話に通じてますよね」

「そうね……なんでだろうね?」


 マユミも小首を傾げた。

 言われて見ると確かに変だ。

 たまたま偶然という事もあるのかもしれないが……。


「それよりも太陽神って、なんか雨に関係ありそうじゃないか?」


 ウシツノに言われ思考がそちらへ引き戻される。


「でも具体的なことは何もわかんないよ」

「う~ん」


 そう話しながら歩いているうちにあることに気が付いた。


「雨、止んでるね」


 一滴も黒い雨が降っていないのだ。

 カレドニアの街を出てからだいぶたっている。

 空は曇天だが雨は止んだ。


「ねえ、私、雲の上を見てこようと思うんだけど」


 外套を脱ぎ捨てたマユミが空を見上げながら宣言した。


「雲の上?」

「どうなってるか確認してくる」

「危なくないか?」

「もうとっくに危ないでしょ。二人は先に行ってて」


 ビュン、と神器の鞭を打ち払うとマユミはナイトメア・サキュバスの姿に転身する。


「行ってくる」


 そうして背中の羽根をはばたかせ、上空高くへと舞い上がっていった。


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