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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第一章 姫神・放浪編

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035 シオリ、転身


 辺り一帯を埋め尽くす、無数の蠢くツタが容赦なく一行に襲い掛かった。

 慌ててレイを降ろすとウシツノも刀を抜いて応戦した。

 ツタを何本も斬り払うウシツノであったが、刀の斬撃をすり抜けたツタは背後に横たわるレイを目がけて直進した。


「このッ」


 レイに届く寸前でそのツタを切り落とすが、周囲に群がるツタは執拗にレイを狙い撃ちしてくる。

 ツタは同時にシオリにも向かってきた。

 そのツタはタイランが薙ぎ払っていく。

 しかしいくら斬ってもツタの猛襲は途切れることなく次第に二人とも剣速が鈍りだしてきた。


「く、こいつ……なんか妙だ」

「気付いたか、ウシツノ」

「はいッ」

「どういうことです?」


 事態が飲み込めないアカメは右往左往しながら邪魔にならない位置を確保しようとしていた。

 ウシツノが手のひらの汗を服で拭いながらも応戦しながら答えた。


「こいつら、さっきからオレを無視してレイ殿ばかり狙ってるんだッ」

「こちらもだ。私には一切向って来ず、シオリにばかりツタが向かって来る」

「え、獲物を選んでいる? 食人花(マンイーター)はニンゲンだけを選んでいるのですか?」

「あるいは女を、だ!」


 タイランが答えながらまた一本ツタを切り落とす。

 終わりの見えない攻撃に、さすがに疲弊の色を隠せなくなっている。


「埒があかん! とにかく本体をやるんだ!」

「アカメ! こいつの弱点はないのか」

「弱点、と言われましても、植物である以上は炎に弱いと思いますが」

「火なんて起こしてる暇ないぞッ」

「んッ?」


 その時アカメは空気に混じって甘い香りが漂っているのに気が付いた。

 花畑である以上ある程度の香りを気にかけることはなかったのだが、この状況で一層の香気を吸い込んでいることに違和感を覚えたのだ。

 タイランとウシツノも遅れてそのことに気が付く。


「これは……」

「な、なんだか体が重くなってきたぞ……」

「いけないッ! マンイーターが散布した花粉です! 吸い込むと身体機能の低下を招きます」

「くッ」


 徐々にではあるが、疲労とは別に明らかに剣速が鈍っている。

 思いとは裏腹に体が機能せず、腕も脚も力が入らなくなっていた。


「しまったッ」


 そしてついに、ツタが念願のシオリとレイを捕らえた。

 手に負えない数のツタが重ねてシオリとレイの全身を(いまし)めていく。


「きゃあッ」

「シオリッ」

「レイ殿ォ」


 シオリとレイの体が空へと舞い上がり、マンイーターの本体が密集する一面に連れ込まれた。

 ウシツノとタイラン、それにアカメも必死に追おうとするがどうにも足が前へと進まない。

 ガクガクと膝が折れ、両手を地面に着いてしまう。


「シオリ殿ォ」


 ウシツノの叫びもむなしく、シオリは大きく口を開けて待ち構える巨大な花の上に投げ出された。

 恐怖した。

 冷静さを失い、必死にもがくが無情にもシオリの身体は巨大花に飲み込まれてしまった。

 一瞬であった。


「アカメッ、火を起こせッ」


 叫びながら重たい体を引きずって、ウシツノはシオリを飲み込んだ巨大な花に這っていった。


「間に合いませんよォッ」

「だったらなおさら、早く始めろよッ」


 泣き声で反論するアカメを一喝し、ウシツノはなおも花へと向かうが、体は動かず歯がゆくて仕方がなかった。


「くそォッッッ」


 刀を杖に立ち上がったウシツノを横合いから打ち込まれたツタが吹き飛ばす。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 花の中で、シオリは正気を失いかけていた。

 今の状況がまるで信じられなかった。

 狂気の夢を見ているのではないか。

 自分が巨大な花に飲み込まれ、これからゆっくりと消化されていくなんて。

 花の内部は大きな袋状となっていて、暗くて何も見えない。

 全身を縛めるツタはすでにないが、内壁から染み出す生ぬるい液体がヌルヌルとして気持ち悪い。

 足場も不安定に揺れ動き、膝下までその粘液が溜まっていた。

 少し動こうとした途端に足が滑り、尻から腰まで粘液に浸かってしまった。

 頭上からは絶え間なく液体がポタポタと落ちてきて、シオリの全身はぐっしょりと粘液にまみれていた。

 巨大な花の胃袋にいることを思いだすと身の毛がよだつ。

 これからどれだけの時間をかけて消化されていくのだろうか。

 現実感のない自分の最期に、とうとうシオリは何も考えられなくなった。


「せめて……」


 ただひとつ、願ったのは、光であった。


 ここは暗かった。


 暗くて怖くて寂しくなったので、せめて光が欲しかった。

 光は眩しくて両手を広げたくなる。

 闇は怖くって、その身を縮こませてしまう。


 シオリは光を渇望した。


 その想いにソレは応えた。


 シオリ自身、ずっとそこにあることを忘れていた。

 いや、忘れるとは違う。

 腕や足があることを常に意識しているわけではない。

 身体の一部とはそうしたものだ。

 自らソコにあるモノと認識した時にだけ意識が向く。


 ソレは最初から、今の今までその手にあった。

 ソレはまごうことなきシオリの一部であり、世に二つとない神器であった。


 長く、美しい、白い剣を握っていた。

 シオリの意識が向いた途端、その剣から光が溢れ出した。

 まばゆい光だった。

 シオリは光を見ていた。

 眩しさに目を閉じたいとは思わなかった。

 光は自分の一部であって、目を背けるものではないとわかっていた。

 そう、その光は剣から発しているが、その光は紛れもない自分自身であると理解していた。

 自然に言うべき言葉が口から出ていた。


「転身! 姫神! 純白聖女(ブラン・ラ・ピュセル)


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