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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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349 黒点病


 翌朝各地から被害状況がトーンのもとに報告された。


 止まない黒い雨のなか、たくさんの衛兵が駆り出され現場検証に奔走していた。

 やはり被害は貧民街に多かったが、それ以外の地域からもかなりの数、報告が上がっていた。

 怪我人や器物損壊、そして不幸にも亡くなった人たち。

 その原因は一様に、狂暴な獣に襲われたというものであり、信じられないことにその獣はどれも昨晩まで普通の人間、共に働く仲間、そして長年連れ添った家族であったというのである。


「人が突然獣になったというのか! そんなこと、信じられるか」


 トーンは激昂するが多くの人たちが目撃している以上否定する根拠も弱かった。


「まだ確認中ですが、その者たちはみな黒い斑点が浮き出てくる、いわゆる新種の〈黒点病〉を患っていたそうです」


 報告する臣下にトーンを責めるつもりはないが、どうしても言葉尻に対処の遅れに非難めいた節がこぼれてしまう。


「そいつらはどこへ行った?」

「わずかな目撃情報によると宵雨のなかを南へと去ったそうです」

「ローズマーキーの方か。すぐに対策班を組織しろ。専門家も見繕い召集させるのだ。意見を聞きたい」


 それから、とトーン王は指示をひとつ追加する。


「ローズマーキーならジョン・タルボットの調査隊が向かったはずだな。新たな獣の群れと遭遇するかもしれぬ。念のため伝令と援軍を派遣してやれ」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 貴族の邸宅が並ぶ上流街の外れにダンテの廃墟はある。

 昨夜シャマンらしき獣が破壊した窓枠を一応修理してみたが、見た目は廃墟同然のままであった。


「とりあえず雨が吹き込まなければ問題ない」


 ダンテは頭に包帯を巻いていた。

 昨夜の乱闘で少し切ってしまったのだ。


「レッキスたちが獣に……どうしたらいいんだ?」


 ウシツノの言葉に返せる者はいなかった。


「闇先生?」

「ドクターと呼べ」


 いつものようにコーヒーを啜る。

 今日は普段より熱めに淹れているようである。


「獣に変わるなんて病気があるのか?」

「ない」


 即答された。


「じゃああれは」

「呪いとか術技(マギ)の類ではないか」


 そうだろうがそれでは何もわからないと変わらない。


「呪いってことはやっぱりゼイムスなの? あの怨霊(ひと)が仕出かしていることなの?」

「私は医者だ。医者は魔法や霊ではなく科学を信じる」

「でも元凶がゼイムスなら、奴をきっちり倒せばみんな元に戻れるんじゃ……」

「ボウガンの矢が発射された後に射手を倒したところで飛んできた矢が消えて無くなるわけでもあるまい」


 ハクニーの質問に真っ向から否定した。


「ドクターの考えを聞かせてくれ」


 ウィペットに言われダンテは少し考えこむ。


「お前たちにもわかりやすく話すとだな、獣化した者たちの共通点として黒点病を患っていたというのがある」

「黒点病?」

「最近医者の間で呼びならわす様になったものだ」

「体に黒い斑点ができるというあれだな?」

「そうだ。原因はおそらく黒い雨にある。長くあの雨に濡れればそれだけ発症リスクも上がる」

「なぜ黒くなるのじゃ?」


 クルペオの問いにあくまで推測の段階だが、と付け加えてからダンテは答える。


「黒点病というのはバラなど植物に発症するものだ。ある種の菌が原因で黒い点が現れ、やがて全体に広がり壊死してしまう。高温多湿で発症することが多い」

「カビみたいなものか」

「まさしくそうだ。黒点病はカビによるもので植物の場合発症したらその部分を剪定して対処する」

「ヒトの体じゃ切るわけにはいかないぞ」

「治せないの? ほっとくと壊死しちゃうんでしょ?」


 ウシツノとハクニーにダンテは首を横に振る。


「あくまで黒点病になぞらえるのはまだ推測にすぎない。似ているというだけだ。獣化する以上、似て非なるものだろう」

「私たちも発症する?」


 マユミが聞いた。

 もちろん答えは想像通り。


「誰にもリスクはある。今わかっているのはおそらくこの黒い雨に濡れなければ防げる、という事だけだ」

「これからどうすればいいんだろう?」


 ハクニーの疑問に全員が黙り込む。

 雨が止むのをひたすらに待つしかないのだろうか。

 しかしこの雨はもう半月以上ひとときも止むことなく降り続けている。


「濡れずに晴れてる場所まで逃げるとか」

「リスキーだ。家に籠っていた方がいいんじゃないか?」


 ウシツノはアカメがいない心細さを感じていた。



 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「陛下! トーン陛下!」


 バタバタとみっともなく駆けてくる大臣にトーンは不機嫌そうに応対する。


「なんだ。朗報だろうな?」


 明らかにそうではなさそうだ。


「一大事でございます! 陛下、黒い水です!」

「なにがだ」


 予想通りこの黒い雨についての報告だった。


「当面、雨に当たるなと布告を出したばかりだろう。他に何かあったか」

「ち、ちちち、地底湖です! 地底湖の水が」


 ハイランドで地底湖と言えば城の地下深くに揺蕩う湖以外ない。

 人々の生活用水として街中に水路が張り巡らされている。


「地底湖の水が真っ黒なのです! 黒い雨に汚染されています!」


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