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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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348 三匹の獣


 街中が異変に気が付いた。


 春の終わりの長雨は人々を陰鬱な気分にするものだが、その雨が不気味に黒く淀んでいるとなれば、なお一層に気分が沈むことをご理解いただける事と思う。


 すでに黒い雨は一週間も降り続けていた。


 最初に騒ぎだしたのは労働者が多く住む貧民街だった。

 土木工事や荷物の配達など、外で仕事をこなす毎日を送る者が大半だった。


「そ奴らは何を騒いでいるのだ」

「身体中に謎の黒い斑点ができているのだとか」

「やわなことを! シミや黒子(ほくろ)ができた程度で大の男が!」


 そう言ってトーン王はこの訴えを真剣に取り合わず、一笑に付したのみだった。


 さらに長雨は五日続いた。

 それでも止む気配はない。


「陛下、野良犬や野良猫が凶暴化し、人間を襲う事例が多発しています」


 今度は実際に怪我人まで出るようになった。


「それと労働者どもの件と関係があるのか?」

「野良犬や野良猫にも黒い斑点があったそうです」


 トーンは野良犬や野良猫を捕獲して殺処分するよう命じただけであった。


 さらに翌日から新たな事例が報告される。

 複数の町医者からであった。


「陛下。凶暴化したドブネズミに噛まれた者たちの間で病が蔓延しています。病原菌が特定できず治療は困難であると」

「何なのだいったい!」


 ここへ来てゼイムスの呪いの噂は一気に広がりを見せていた。

 同時に新王の手腕を疑う風潮にも歯止めが効かなくなりつつある。

 トーン王の機嫌はますます悪くなるも、それを諌めるアカメやレームは遠くネアンの街に派遣されていた。


 それからさらに三日後、黒い雨が降りしきる中、ついに惨劇が予想もしない手段で幕を開けた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「う……う、ん」


 窓を打ちつける黒い雨音越しにレッキスの苦しむ喘ぎが聞こえた。

 隣で寝ていたメインクーンが覗き込む。

 時間は真夜中。

 灯りのついていない部屋では細かな表情は見てとれない。

 それでも夜目の利くメインクーンは目を凝らして様子を見てみた。


「ッッッ! レッキス!」


 思わず叫んでいた。

 あまりの大声に本人が目を覚ます。


「クーン……?」


 発した声はくぐもって聞こえた。

 上手く発音できなかったようだ。


「どうかしたか?」


 いの一番に部屋へと入ってきたのはシャマンだった。その後ろをウィペットとクルペオが続いている。


「レッキスが……」


 言いかけてメインクーンは耳を疑った。

 自分もうまく発声できていない。

 息が漏れるような、唇がうまく動かせていないような、そんな違和感。

 灯りを捧げ持ったクルペオが部屋の二人を照らす。


「そんなッ! 二人とも、大丈夫か」


 驚くクルペオの反応が理解できず、部屋にあった姿見に目を移す。

 そこに写ったメインクーンとレッキスは、認識している自分の姿とは大きくかけ離れたものだった。


「なにこれ」


 そこに写っていたのは狼のように口許の突き出た輪郭と、全身から伸びた剛毛。

 鋭い犬歯の並ぶ歯列にらんらんと輝く濁った瞳であった。


「全員部屋を出ろ。猿人族(ショウジョウ)、お前も発症する恐れがある。ここに残れ」


 夜中だというのにいつもと変わらぬ白衣姿で、ドクターダンテは現れるなり指示を出した。


「しかし……」


 言いよどむウィペットだったがダンテは頑として聞き入れず、渋々外の廊下で待機することにした。


「どうかしたのか?」


 遅れてウシツノとハクニー、シオリ、マユミ、バンが現れた。


「わからぬ。なにがなんやら、奇怪じゃ」



 ワォォォォォオオオオオオオォォォォン……


 そのとき外から遠吠えらしき雄叫びが聞こえた。


 ワォォォォン

 ウォォオオオオオォォンンン


 呼応するように街のあちこちから聞こえだす。


「な、なんだ? こんな街中で狼の遠吠えか?」

「まさか、バル・カーンじゃ?」


 全員が警戒した時、今度は目の前の扉の向こうで家具が引き倒されたかのような衝撃が響いた。

 続けて暴れまわる騒音が聞こえてくる。


「なにかあったのか!」

「入るぞ!」


 有無を言わさずウィペットが扉を蹴破ると、吹っ飛ばされたダンテの体とぶつかった。


「ドクター!」

「くっ、気を付けろ。三人とも理性を失っている」

「なに?」


 続けて部屋に飛び込んだウシツノは驚いた。

 目の前に三匹の獣がいた。

 上半身が肉厚で巨体の獣。

 全身がしなやかな筋肉を持つ獣。

 格闘スタイルで爪を打ち鳴らす獣。

 その三匹が牙をむいて威嚇している。


「バ、バル・カーンか!」

「ちがう、そいつらは……」


 言いかけるダンテの様子にウィペットとクルペオはハッとした。


「まさか! シャマン! レッキス! メインクーンか!」

「なんだって!」


 信じられないと目を見張るウシツノだが、無情にもダンテが「そうだ」と頷く。



 グォォオオオオオオォォォォォォンン

 アオーーーーーーーーーーッン



 突然シャマンたち三匹が遠吠えを上げる。

 それはまさに狼の如くあり、理性の欠片も見えなかった。



 ガシャァァァァン!


 シャマンだった大きな獣が腕を振るい窓を叩き壊す。

 途端に強風と黒い雨が室内に吹き込んでくる。


「ま、待て!」


 ウシツノの静止など聞くよしもなく、三匹は夜の街へと飛び出していった。


「追うな! 原因はきっとこの雨だ! 濡れればお前もああなるぞッ」


 窓へと駆け寄ったウシツノをダンテが思いとどまらせる。



 ウォォオオオォォォッッッッッ


 ガァアアアァアアァアァアア


 グオーーーーーッン



 街中から遠吠えが聞こえる。

 それと同じぐらい悲鳴と怒号も聞こえてくる。


 街中で同じような異変が勃発しているようだった。 


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