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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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344 雨ニモマケズ


「ギワラ、行くのはよした方がいい」


 レッキスたち三人の肌に生じた黒点を危ぶみ、ドクターダンテはギワラに思い止まるよう忠告した。


「いえ、雨に濡れなければ問題ないはず。行きます」


 ギワラの意志は固い。

 目元以外をピッチリと覆った革のスーツに着替え、さらに水滴を弾くよう全身に油を塗り込めた。

 長めの髪をうなじあたりでバッサリと切り、頭から上半身を覆うほどの雨具(ポンチョ)をすっぽりと被る。


「馬はどうする? きっと馬にも黒点の影響はあるぞ」

「まだどんな症状が出るかはわからん。徒歩で行くのは論外だ」


 ウシツノとウィペットまでもが思い直すように忠告するが、


「私がパペットで馬を用立ててあげるよ」


 空気を読まないマユミが有り合わせの金属片で馬型のパペットを作り上げてしまった。


「名前は好きにつけたげて」

「恩に着ます」


 全身鎧甲冑を身に着けたようなフォルムの馬が出来上がっていた。

 パペットならエサも休憩も必要ない。

 雨に濡れても問題もないだろう。


「仕方ない。空気中の水蒸気すら怪しいのだ。なるべく息も止めて行け」


 無茶を言いつつ、個人の意思を尊重するとダンテも諦めた。


「本当に濡れなければ問題ないのかの検証にも使えるしな」

「思ってもいないことを」


 クルペオの物言いにダンテは鼻を鳴らした。


「では行きます。道中タイランさんを見つけたら皆さんが心配していたと伝えておきます」


 そう言ってギワラは雨に煙る街を馬で駆けて行ってしまった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「やはり泥や埃ではなく水そのものが黒いようですね」


 王宮のもっとも高い場所となる、崩壊したままの第一の塔跡地で、アカメとレームは黒い雨を調べていた。


「しかし墨のようでありながら墨ではない。真っ黒と言うほどでもなく、むしろ透明性は高い。この水はなんなのであろうな?」

「わかりません。伝承にある黒い雨がどのような結果をもたらしたのか。その後についてそこまで詳しく書かれた記述は見当たりませんし」

「それは要するに、特に気にするものではなかったという裏返しではないのかね?」

「だといいのですが」


 それが安心を裏付けるものではないことも確かである。


「問題ないとなれば兄上は早速にも調査隊を各地に派遣するであろうな」


 この王宮のあるハイランドの首都カレドニアには各地からの避難民が大勢いる。

 彼らは点在する広場などに仮設テントを張り生活しているが、戦は終わり、さしあたっての驚異もなくなった以上、それぞれの街へ帰りたいという要望が日増しに強くなっていた。

 新王となったトーンとしても、これ以上カレドニアの治安維持に心血を注ぐより、一刻も早く避難民を元の街へと帰し、各都市の経済活動を再開してくれることの方が望ましい。

 しかしエスメラルダやバル・カーンによって蹂躙された街が今どうなっているのか不明である。

 安全が確保されるまでは帰還を勧めにくかった。


「そのための調査隊ですか。たしかにそれも急を要しますね」

「不確かな不安で決定を長引かせるのは兄上が嫌うところであるぞ」

「ええ、わかってます」


 結局その日の午後、トーンは調査隊の派遣を正式に決定した。

 南のローズマーキー、東の城塞都市ネアン、その間に位置するウラプールの三都市が対象である。

 三つの隊が編成されたのだが、ローズマーキー行の第一隊は大将軍ジョン・タルボットが任され、ウラプールの第二隊、ネアンの第三隊はそれぞれ第三皇子クネート、そして第二皇子レームが指揮官に任命された。


「ゼイムス支持派の急先鋒だった大将軍はわかるが、なにゆえ吾輩やクネートまで」


 戦闘経験などない二人の弟に経験を積ませるため、と言えば聞こえはいいが。


「これは体よく厄介払いされましたね。おそらくあのエッセルという役人の入れ知恵でしょう」


 それがアカメの見解だった。


「トーン王にとって耳の痛い進言をする私たちを遠ざけるための」

「吾輩に王位簒奪の気などないのだぞ」

「あの方は猜疑心がお強いですから。下手するとこのまま現地に領主として着任するよう命令が降る可能性も」

「吾輩がネアンの領主? 領地経営などできんぞ」


 そう嘆くレームだが、トーンがどう考えるか次第なので何とも言えない。


「とはいえレーム皇子がいなければ王宮にいても私の進言も通りません。私もネアンまでお供しましょう」

「そうしてくれると心強い」

「しかし、戻るまでにハイランドが無事でいてくれればいいのですが」

「怖いことを言うなあ」


 しかしそれはアカメの偽らざる不安なのであった。


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