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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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336 誰かに、何かを


 炎が覆いつくさんとする屋敷のバルコニーにて。

 舞い降りた姫神に一瞥はくれつつも、エユペイはそれ以上に剣聖の態度が気に入らなかった。


「あなたたち、喧嘩するにも火事の中でやんなくってもさ……」

「うるさい。黙れ」

「ムッ!」


 さすがのマユミもカチンとくる。


「それよりも貴様、闘う気がないのか。逃げ回るばかりではないか」


 エユペイはマユミを無視してケイマンに食って掛かる。

 戦闘開始来、ケイマンはエユペイの攻撃をいなし、かわし、避け続けるも、彼からの攻撃は牽制以外ほぼ皆無に等しかった。

 挙げ句いつの間にやら地下室前からバルコニーにまで引きずり出されている。


「そんなことはないわい。ほれ、続けようか」

「……」


 だらリと下げた指をポキポキと鳴らしながら、エユペイの目は凍てついた氷のようにケイマンを睨み付けた。

 やろうと言いつつ、奴の間合いはほんの少し遠い位置を保ち続けている。


「そういうことか……落ちたな。剣聖を名乗るほどの者が」

「それは捨てたと言うたろ」

「貴様、単なる時間稼ぎだな! オレをゼイムスから離すためだけの」

「ニィ」


 ケイマンの顔がおちょくるような笑顔を見せる。


「チッ」


 構えを解くと屋敷内へ踵を返すエユペイを、しかしケイマンは黙って見送った。


「いいの? 行っちゃったよ?」

「十分じゃ。もうええじゃろ」

「ふぅん」


 そう言ったケイマンはまだこの場から退散する気はないようだ。

 炎に巻かれてくたばるほど間抜けではないかもしれないが、とどまったって意味はないんじゃ……。


「行かないの?」

「おヌシも何か、ワシに言いたいんじゃないかと思ってな」


 ケイマンはマユミの右腕を指しながら言う。


「あぁ」


 マユミの右腕は以前、ケイマンによって斬り飛ばされていた。

 今は義手の形に金属片をより集めて作ったパペットで補っている。


「まあ、そうだね」

「……それだけか?」

「まあ、よくわかんない」

「そうか」


 不思議とこの老人に怒りなどは沸かなかった。


「あんたこそ、さっき何で闘わなかったの? あんなに人をおちょくって斬ることばかり考えてたくせに」

「酷い言われようじゃ。ま、否定はせんが」


 少し老人は考え込み、選ぶように言葉を発しだした。


「ワシは剣聖じゃったが、あまり敬われるような事はなかった」

「でしょうね」

「……じゃがな、あやつだけは違った。シンプルにワシの強さを崇め、ワシに教えを乞うていた」

「あやつって?」

「あの赤い鳥に言われたことが引っ掛かっていたのかもしれん」



『強さとは称号で語られるべきものではない。何を成したか、何を残したか、だ。』

『貴様がいなくても、世界は今と変わりはしない。貴様は何も、残していない』



「奴めは強い。せめてワシが引きつけておいてやろうとな。ワシのできる最後の恩返しみたいなもんじゃ。愛弟子に何かを残してやれればとな」

「それってトーン皇子の事?」


 その質問の返事には口許を和らげるにとどめた。


「さて、他になければワシャもう行くぞ」

「あ、あのさ、その手、私みたいに義手にする?」


 目の前の老人に憐憫の情を覚えたわけでもなかったが、今の話を聞いてマユミ自身も他人に何かをすべきなんじゃないか、と思ったのかもしれない。


「酸素濃度が低いと動きが鈍るし、たまに勝手に動いたりもするけど。よかったら……」

「いや、ええ。不自由ゆえにより強くなれる、そんな気もしおるでな」

「そう」


 ではもうマユミに、してやれることはなにも思いつかなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 老人と別れマユミは屋敷の前に待機していたウシツノとハクニーに合流した。

 予想外にひとりで戻ったマユミにウシツノはどうしたのか尋ねたが、


「助けはいらないって。もっと強くなれるからって」

「はぁ?」


 その報告の意味は全くわからなかった。


「他には誰もいなかったの?」

「探せる範囲にはね」


 もしかしたらシオリがいるかもしれない。

 ハクニーのそんな期待も十分確認をとれる時間はなさそうだった。


 間もなく屋敷は完全に焼け落ちてしまった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 貴族の屋敷が集まる高級住宅街で起きた一連の火事は、瞬く間に国中に広まった。

 そして口さがない者たちによってゼイムス皇子がその犠牲となった事が噂に登り、その話題はあっという間に多くの国民の知ることとなった。

 虚実折り混ざった噂は誰もが関心を示すところとなり、その多くはわずかに見えたこの国の光明が、一瞬にして消え去ったことに悲しみを抱いていた。

 民衆のそのストレスはやがて王宮へと向けられることになる。


「どうすべきかな後輩よ」

「そうですね」

「ゼイムスは生きていても死んだとしても話題の中心なのだな」


 第二皇子レームはすっかりアカメを頼りにしていた。

 ゼイムスが使っていたらしい屋敷が落ち、当のゼイムスもこの数日行方不明。

 巷ではあの火事に巻き込まれ帰らぬ人となったと嘆かれている。

 そしてこの件に関して第一皇子であるトーンは沈黙している。

 真偽はともかく、事情を知る者からすれば、ゼイムスの死を一番に喜ぶのは間違いなく彼なのだ。

 それだけに不可解さが残る。


「このまま何もせずにおっては取り返しのつかないことになるのではないか?」

「そうですね。少し私からも進言してみますか」

「そうしてくれるか! いやぁ、吾輩はどうにも学問に頼りがちで、こういう事には長けておらんのでな」

「はあ。まあ、でも、トーン皇子に私の話を聞く耳お持ちならよいのですが」


 そう言ってアカメはトーンに面会を願い出た。


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