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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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334 想定の範囲内


 両手首から先がない。

 それでこの死地へと赴いて来るとは不可解――。


 それがエユペイの正直な感想であった。

 マラガを根拠地として殺しの活動を行ってきたエユペイにとって、剣聖の称号は関心を示すほどの者ではなった。

 だがその考えはいま改められていた。


 隻腕の剣士などいくらでもいる。

 両手のない剣聖がいて何の不思議があろうか――。


「コゥッ!」


 鋭い呼気を吐き出すと一直線に間合いを詰める。

 両手首をひねりながら真っ直ぐ突き出す。

 龍の牙の如き突きをケイマンは上半身だけでかわす。


「ソッッッ!」


 猛禽類の鋭い爪を連想させる手刀が追い打ちをかける。


 ビッ! とケイマンの左頬が微かに削られる。


「ティッッッ!」


 さらに全体重を乗せた前蹴りがケイマンを襲う。

 ケイマンはその蹴りを右肘を張り出して防御した。

 確実に肘の骨を粉砕したと思えたが、逆にエユペイは足に鈍痛を覚え堪らず引っ込めた。

 蹴りだした右足の裏は履いていた革靴の底を割き、赤い血まで滲ませていた。

 見ればケイマンの右肘から鈍く光る刀身が突き出ていた。


「体内に仕込んでいたか……全身に何を隠しているか気が抜けないな」

「そういうオヌシこそ、五形拳(ごぎょうけん)を使うか」

「ほう、驚きだな。この技を知っているのか」

「五種類の魔獣を(かたど)った拳法、てぐらいじゃがな」

「そうだ。伝説の拳法家イ・ブキュイが編み出した伝説獣の五形拳。すなわち(ドラゴン)鷲獅子(グリフォン)天馬(ペガサス)人魚(マーメイド)不死鳥(フェニックス)の特徴を取り入れた最強の拳術だ」

トカゲ族(リザードマン)が入ってないんじゃ未完成も甚だしいわい」

トカゲ(おまえら)はドラゴンの下位互換だからな」

「下手クソな煽りじゃ」

「お前こそがだ」


 二人の死闘が再開された。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 一段と暗い地下室に降りるとゼイムスは素早くカンテラに火を入れた。

 ほの暗い灯りをともすカンテラをライシカに持たせると、自身は入り口の壁にかかっていた松明に火を灯した。

 狭い室内に黒煙を上げる炎がくすぶる。


「カンテラがあれば松明はよかろう?」

「こっちは咄嗟に反撃にも使えるからな」

「煙いわ」

「すぐに地下洞が広がる」


 地下室の奥に重たい扉があった。

 その扉を押し開くとそこは朽ちた地下牢が(こしら)えてあった。

 そこにうずくまる少女が閉じ込められていた。


「起きろ。ここを出る。死にたくなければ大人しくついて来るんだ」


 そこにいたのはシオリだった。

 ライシカに連れられゼイムスにより監禁されていたのだ。


「襲撃者はオレを殺しに来ている。だが高確率で目撃者も同様に殺される。神器を持たないお前が無事でいられる保証もない」


 鍵を外しシオリを外へと出す。

 特に拘束されていることはなく、五体も満足だ。


「お前は我らの切り札だからな。言うとおりにしていれば命は保証してやる」

「あなたは……」


 言いかけたシオリの背中にライシカが短剣を突きつける。


「大人しくしてなさい。何も話す必要はありません」

「……」


 シオリが口をつぐんだのを確認するとゼイムスは壁際の台に置かれた重たい壺を床に下ろした。

 壺の重しがなくなりスイッチが起動する動作音が聞こえた。

 すると壁の一角がスライドし奥から隠し通路が出現した。

 そこへゼイムスは迷いなく入る。

 ライシカにせっつかれシオリが続く。

 通路は石を切り崩して作られた歪な下り階段が続いていた。

 周囲から足音と松明の火が爆ぜる音以外何も聞こえない。

 だがやがてシオリの耳にかすかだが水音が聞こえた気がした。


「地下洞だ」


 階段が終焉を迎えると視界がグッと広がった。

 そこは巨大な地底湖だった。

 そこでシオリはすぐに異変に気が付いた。

 暗い地下洞を想定していたにもかかわらず、広大な地底湖をすぐに認識できたのは、そこに多くの明かりが灯されていたからに他ならない。


「……チッ」


 ゼイムスの舌打ちが聞こえた。

 地下洞にもすでに襲撃者たちは待機していたのだ。

 それもかなりの数に上る。


「数もそうじゃが、こやつら、正規兵ではないか」


 ライシカの推察通り、屋敷を襲撃した者たちとは様式が違う。

 それを指揮する者を見れば一目瞭然だった。


「こんなところで何をしている、ゼイムス?」

「お前こそ。王国危急の時にこんな地下洞で兵を遊ばせているのか、トーンよ」


 待ち構えていたのは直属の親衛隊を整列させたこの国の第一皇子トーンであった。


「まさかお前自ら暴挙に出るとは。ついに頭が狂って正常な判断が下せなくなったか」

「これが最善なのだ。お前の存在をこのハイランドで認めるわけにはいかぬ」

「大将軍やほかの諸侯たちが黙ってはおらぬぞ」

「貴様が死んだ後のことを気にする必要はない」

「ハッキリと言ったな。もう言い逃れは出来んぞ」

「その心配も無用。この状況、貴様にとっても想定外であったろう? せめてもの手向けだ。今ここで自害するがいい」

「馬鹿め。想定外も想定の内よ」


 ゼイムスは言うなり腰から剣を鞘走らせた。


「何としてもここを生き抜く! オレは正統な王位継承者ゼイムス・ウォーレンスなのだからなッ」


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